バトロイドさんの小説3

本文

====翌日の生徒会====

「人は失敗を糧にして成長していくのよ。」
会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。

「その通りです、会長。俺も普段ハーレムに失敗してますが、徐々に成長しているんです。」
「いつものように杉崎以外。」
「というか、鍵。ついにはハーレム形成に失敗してるのを自分でも認めるんだな。」
「うぐっ・・・いや、そんなことは無い。だって・・・」
「だって?」
俺は即座に真冬ちゃんを見る。

「・・・・・・」
真冬ちゃんは黙ったまま目をそらしてしまったので俺は誤魔化すことにした。

「い、いやあ・・・なんでもないですよ・・・」
「変な鍵だな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

少しの間生徒会室が静寂に包まれる。

そして、その沈黙を破るように知弦さんが口を開いた。

「でも、この名言に関してはアカちゃんも省かれると思うのだけど?」
「ど・・・どうしてよ?」
「だって、アカちゃん毎回失敗してるのに何一つ成長しないんだもの。」
「うっ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

結局生徒会室は沈黙に包まれた。

そのまま本日の生徒会終了・・・

「あ~あ、今日は退屈だったな。帰るぞ、真冬。」
「はい。お姉ちゃん。」
「じゃあ・・・本日の生徒会終了・・・」
会長はいつもの元気が無くなっていた。

=====その日の夜=====

あぁ・・・やっぱり気持ちがすっきりしない・・・
前は生徒会室に行けば気持ちが弾んで・・・毎日が楽しかった。

ただ今は・・・俺のハーレムはもう無い・・・
真冬ちゃんと付き合ったときにすでにそんな事はわかっていた・・・
わかっていた・・・はずだった。
なのに今は凄く後悔している・・・
真冬ちゃんが嫌いになったわけじゃない。
むしろ前よりもっと好きになった。
ただ・・・真冬ちゃんへの気持ちが募れば募るほど、他のみんなへの気持ちも募っていく・・・
どうすればいいのかわからない・・・やっぱり俺の手ではみんなは幸せには出来ないのかもしれない・・・
心の中がもやもやして・・・どうしようもない気持ちになっていく・・・
どうすればいいんだろう・・・
ハーレムを諦めたくは無い。
でも、真冬ちゃんと別れるのは俺の気持ちに反する・・・

とりあえず今日は寝よう。
まだ、時間はある・・・
焦ったら焦るほど自分の気持ちがわからなくなっていくから・・・


=====さらに翌日の生徒会=====

「個性を磨くことこそが、成功への近道なのよ。」
会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
いつもならここで俺が何か言いたいところだが、今の俺はそんな気分ではない・・・

会長・・・知弦さん・・・深夏・・・そして真冬ちゃん・・・
できることなら全員を幸せにしたい。
でも、以前俺は飛鳥と林檎・・・この二人すら幸せにできなかった・・・
その俺が4人もの人を幸せにできるのだろうか・・・
そのとき、真冬ちゃんと会長の会話が聞こえてきた。

「真冬ちゃんは・・・わかりきってるけど・・・これだけは譲れないものってある?」
「はい。BLです!!」
「やっぱり・・・」
「真冬は先輩がBLを好きになってくれればもっといいです。」

そんないつもの言葉でも今の俺のもやもやした心にはイラッときてしまった。

「うるさいなぁ!いつもBLは好きじゃないって言ってるだろう?人をからかうのもいい加減にしてくれよ!」
俺はそう叫んでしまった。

会長も知弦さんも深夏も驚いたような目でこっちを見ている。
真冬ちゃんの目には涙が浮かんでいた。

「そうですよね・・・真冬が・・・間違ってました・・・」
俺は自分の失言に気づいて慌てて訂正しようとする。

「い・・・いや・・・違うんだ・・・そんなつもりで言ったんじゃ・・・」
必死に訂正しようとするが言葉が出てこない。

慌てていると真冬ちゃんが席を立って、走って生徒会室を出て行ってしまった。

「ま・・・真冬!」
深夏が慌てて真冬ちゃんを追って生徒会室から出て行った。

俺は放心状態だった。
何でいつものことなのにあんなに怒ってしまったのだろう・・・
いつもなら普通に対処できた・・・
俺の気持ちに余裕が無かったから?
そんなのただの言い訳じゃないか。

俺がそんなことを思っていると知弦さんが話しかけてきた。

「キー君、何かあったの?あなたらしくないわよ。」
「・・・・・・いや、別に何でもないですよ。」
「嘘ついても無駄よ。キー君があんなことで怒るなんて普通の状態じゃないわ。」
「ホントニナンデモナイデスヨ・・・」
「嘘つくの下手ね。あなたが意味もなく女の子に当たるような人じゃないことは知ってるわ。多分、私だけじゃなくアカちゃんもね。」
隣では会長がコクリと頷いていた。

「アカちゃんや私、恐らく深夏も・・・多分この学園の生徒は全員キー君の事を信頼してるはずよ。」
そう言っている知弦さんの目は優しかった。

その目を見て俺は覚悟を決めた。
「わかりました・・・話します・・・」
「ようやく話してくれるのね。じゃあ、アカちゃん先に帰っておいて。」
「な、何で!」
「薄々わかってるでしょ。今回はアカちゃんがどうにかできる問題じゃないわ。」
「そ、そんなことないもん。」
「アカちゃん、あなたがこの生徒会メンバー・・・いえ、この学園の生徒を誰よりも思っているのは知ってるわ。キー君や真冬ちゃんの事が誰よりも心配なのは知ってる。」
「な、なら・・・」
「でも、それだけじゃどうにもならない時ってあるでしょ?」
「そ、そんな・・・」
「厳しいようだけどごめんね。」
「う、ううん・・・わかってるよ。知弦。知弦はみんなのことを思って言ってるんだもんね。私、大人だもん。それぐらい、わかってるよ。」
「そう、じゃあまた明日。」
「うん。じゃあね、杉崎、知弦。」
そう言うと会長は寂しそうに出て行った。

「このほうが話しやすいでしょ。」
「すいません。知弦さん、気を使ってもらって・・・」
「いいのよ。じゃあ、話してくれる?」
「わかりました。」





俺は知弦さんに話し始めた。
真冬ちゃんと俺が付き合い始めたときのことからこの前の夜のことまで話した。
この前のことまで話すのは、さすがに気が引けたが知弦さんを見たときにその迷いも全て無くなった。
俺は知弦さんが驚くと思っていたが知弦さんは知っていたかのように平静だった。

そして今の俺の気持ち。
昔、失敗してしまったから自信がないと。
現実と今の俺の気持ちを全て話した。
話し終わったあと俺は知弦さんに聞いてみた。

「驚かないんですね。」
「だってキー君、昨日ハーレムの話した時にチラッと真冬ちゃんの方を見たから。」
「気づいてたんですか?」
「あれで気づかないのは、アカちゃんと深夏ぐらいよ。」
「そ、そうですか。」
「で、キー君は今の自分の気持ちがわからないからイライラしてるのね。」
「まあ、そういうことです。」
「キー君は誰が一番好き?」
「え?」
「だからこの生徒会メンバーで誰が一番好き?」
「そ、そんなこと決められるはずないじゃないですか。」
「じゃあ、全員が同じくらい好きだと?」
「当然です。」
「甘いわね。今の日本で全員と結婚とかは出来ないし、人にも幸せにできる人数には限界があるのよ。」
「結婚しようなんて考えてません。」
「結婚せずに?それじゃまだハーレムって言い方してるけど結局は浮気でしょ?」
俺は言葉を失った。
確かに知弦さんの言ってることは正しい。
人間が幸せにできる人の数なんてたかが知れてる。
しかも、結婚しなければ4人と付き合うのは浮気だ。
「わかってます。だけど俺は、少なくともこの生徒会メンバーだけは幸せにしたいんです。」
「・・・わかったわ。キー君、でも12月24日まで、つまりクリスマスイブまでには決めたら?」
「何故ですか?」
「私たちは3月には卒業、椎名姉妹は転校と期限は限られてるわ。なら、あなたが選んだ人を最後まで幸せにしてあげなさい。」
俺は少し考えた結果知弦さんの提案に乗ることにした。

「わかりました。俺は自分の幸せにできる・・・一番愛せる人を幸せにします。知弦さん、有難うございました。」
「じゃあ、キー君頑張ってね。」
「はい!」


=====その日の夜(杉崎宅にて)=====
さすが知弦さんだったな。
言い返す言葉も無かった。
4人を幸せにしたい・・・でも、これは俺の勝手だった。
そういえば俺は4人と付き合うのを前提にしていたが他の3人は誰もデレる気配がないな・・・
しまった!
大問題発覚!!
付き合えなければ無意味だ・・・
何でこんなことに気づかなかったんだ・・・

会長・・・昔、カードゲームで俺をミジンコ扱いした・・・
知弦さん・・・俺を殺そうとしてる・・・
深夏・・・ツンデレだが肝心のデレが無い・・・

攻略できるのか?

まあ、今の状態から見てLv100だよな・・・
やべ、不可能だ。
杉崎鍵、今こそ脳をフル回転だ。
魔王をLv1の勇者で倒すくらいの方法を考えるんだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


思考回路が完全に停止しているな・・・
みんなの攻略方法が思いつかない。


攻略?
違う・・・俺は何を考えてるんだ。


俺はみんなが好きなんだ。
それは、みんなに魅力があったから。
なら、みんなに好かれるように、俺が好かれるように努力すればいいじゃないか。
簡単な話だった。
なら、明日やることは決まってる。


=====次の日の生徒会室=====
昨日の事もあって生徒会室の空気は良くない。
知弦さんは俺に気を使っているのか黙ってるし、会長は昨日の俺の理由が知りたいけど聞けないからかムスッとしているし、
深夏は俺が昨日真冬ちゃんを泣かしたのを怒っているのかこちらを一切見ずに読書に集中している。
肝心の真冬ちゃんは今日は休んでいた。
俺は勇気を持って深夏に話しかけてみた。
というか謝った。

「すまなかった、深夏。」
「何がだよ。急に気持ち悪いぞ、鍵。」
「え?何がって、昨日俺が真冬ちゃんを泣かしたのを怒ってるんじゃないのか?」
「あぁ、そのことか。確かにその時は一瞬腹が立ったけど、よく考えたら何の理由もなしに鍵が女子にキレるはず無いからな。」
その言葉に俺は驚き、涙が溢れてきた。

「み、深夏・・・」

深夏は真冬ちゃんのことを凄く心配している。
それでも俺を信じてくれている。
深夏を潤んだ目で見ると深夏は笑っていた。
その深夏が今の俺には天女のように見えた。

そして今俺がやらないといけないことに気づいた。

「すいません、会長。今日の会議は急用で抜けさせてもらいます。」
「ふぇ?杉崎?ちょっと!!」
「アカちゃん行かせてあげて。」
「え?まあ知弦が言うなら・・・」
「有難うございます、知弦さん。」

俺は涙を拭いながら生徒会室を飛び出した。
そうだ、今一番傷ついているのは真冬ちゃんなんだ。
1人に決めて幸せにすると決めても、他の3人を泣かせて得た幸せなんて幸せじゃない。
そう思いながら俺は学校を飛び出し真冬ちゃんの家へと向かった。








参考情報

前編(中線まで)は2010/02/13(土) 02:18:24~2010/02/13(土) 02:24:00で2レスで投稿。
後編(中線から)は2010/02/15(月) 22:55:11~2010/02/15(月) 23:02:23で3レスで投稿。
バトロイドさんの生徒会の一存のエロ小説を創作してみるスレで3作品目。


  • 最終更新:2010-07-07 22:33:25

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