◆864fRH2jywさんの小説1

本文

 窓から差し込む月光は、私の心を透かしていくようだった。辺りは静寂に包まれており、時折聞こえる愛しい人の寝息がかすかに私の鼓膜を揺らす。
 すっ、と組んだ足を、私、松原飛鳥は組みかえた。
 今、距離にして二メートルにも満たないところに、ケンが寝ている。
「襲われたときに逃げやすいから、ケンが窓際ねっ」「し、しねえよそんなこと!」とかなんとかいう会話の果て、ケンは窓際に布団を敷いていた。
 もちろん、ケンがそんなことをしない男だと、私は十二分に分かっている。それより、むしろ私が……。
 窓辺のソファから見下ろすケンの寝顔は、いつだったか子供のころ見た寝顔となんら変わりはなかった。流麗な眉に、すらっと通っている鼻筋。閉じられた瞳と、そして綺麗な肌。美系というに差支えないだろう。皆、ふざけてけなしているのだろうけど、こうやって落ち着いて見たことがあるのだろうか。決してそれは、幼馴染の身内びいきというわけではないはずだ。
「明日には、もう帰っちゃうんだよね……」
 改めてその事実を口にして、私はしっかり噛みしめる。
 私がケンと居られる時間はもう十時間とないのだ。朝が来たら、ケンはあの人たちのところに帰ってしまう。それは、どうしようもない事実だ。
 もし。
もし私が懇願したら?
泣きじゃくって、いっしょにいて、と訴えたら?
――答えなら、さっき聞いた。
ケンは強いやつだ。いかなる手段でも私を説得し、この地を去るだろう。
そんなことが出来るほど、この幼馴染は屈強なやつなのだ。
「……こんにゃろう」
 足をのばし、肩のあたりを蹴ってやる。むにゃ、とかいって反対側、つまりこちら側を向きやがった。私のほうは絶対向かない、なんて寝る前は言ってたのに。
「はは……は」
 空虚な笑みを浮かべる。でも、それが冷めたとき、胸の奥が絞られるのがわかった。
 バカだよ。私は。寂しいのにそういえない、バカなんだよ。
 その瞬間、心が呟く。
 ――ならいっそ、もっとバカになってしまったら?
 私の体は勝手に動いていた。衝動をそのままに、私はケンの背中に手を伸ばしたのだ。
「ケン……」
 揺する。
「杉崎、ケン」
 もう一度、今度はフルネームで呼びながら背中を揺すった。
 届かない声は、反響を残すことなく消える。それは今の私を表しているようで、いっそう心がしめつけられる。
「……ケ……ン」
 か細い声。伝わるわけがない。
 これで、終わりにしよう。
 もし次に呼んで、ケンが反応しなかったら……。
「………ケン」
 私はしっかりと発音する。
 ――動かない。
 そうかダメだったか。そうかそうか。
 私は、ケンの一番になれない。認めざるを得ないそれは絶対不変の事実であって、私がいくらがんばったからって――


「あ……」
しかし、そのときケンは、私のほうを振りかえったのだ。
眠たげに瞳を細めており、明らかに不機嫌そうである。だが次に私が視界に入ったその瞬間、感情を反転させた。
「……なんだよ飛鳥。って! な、なんで泣いてんだよっ!」
 ――泣いている?
 ケンの瞳に映っているのは、背後でぼんやりと光る月。窓ガラス。木の格子――そして、私の泣き顔だった。
 泣いている……。そうか、私は泣いてるのか。
まだ、人前で泣くことが出来るんだ。
「ねえ、ケン」
「うわっ、って、おま……」
 私はケンにもたれかかり、浴衣の隙間に手を這わせる。がっしりとしていて、すべすべの胸板に触れた。冷えた指先に、温もりを感じる。
「なんだよおま……、冷たっ……」
「私、ケンのこと、大好きなの」
「はぁ?」
 少し顔を赤らめつつ、疑問符を放つケン。
「んっ」
 そんなケンの唇に、私は自らのものを押しつけた。
 柔らかい。あったかい。純粋に、心が和らぐ。
 触れ合うだけ――でも、その行為を私は稚拙だと言わない。お互いに一番血液の集まるところを押しあてる。それ自体が意味を成すことで、形式は関係ないのだ。
 純粋に、淡い桃色でいい。今の私たちにどぎついピンクは必要ない。――それは、これから創り出すのだから。
「ねえケン、……抱いて」
「はっ? なっ……」
「本気で。私はあなたのことを、世界で一番愛してる。地球の危機とケンの危機だったら、迷わずあなたを選ぶ」
「飛鳥……」
「だから……っ」
 しだいに高ぶってきた感情を、制御できない。
「証がほしいっ。例えあの人たちに敵わなくても、それでもいいから」
「――飛鳥」
「ケンの隣にいたという証がっ、片時でもケンのそばにいたという証明がっ――」
「飛鳥っ!」
 ケンは震える私を強く抱きしめた。私もケンに身をゆだねながら、彼の香りを鼻孔に満たす。
 荒い呼吸がすっと収まった。
「なあ飛鳥」
「なに」
「ほんとにいいのか? 俺だぞ? ハーレムとか本気で言ってる、こんな俺なんだぞ?」
「いい」
 私は噛みしめながら言った。
「ケンが、……杉崎ケンが、いい」
「飛鳥……」
 引力と、それともう一つに引っ張られたケンの顔が、私に近付く。
 それが私の唇に触れ、私はいいようのない幸福感に包まれた。心の戒めが解かれていく。
 思う――この先には何がある? この最上級の幸福の、さらに上には、何があるの?
 舌先でケンの唇をノックした。一瞬驚いたように瞳が開いたが、すぐに私の舌が受け入れられていく。
「んっ……はぁ」
息が漏れる音が聞こえる。どちらの出している音なのかもわからないくらい、私たちはお互いに染まっていった。


「……脱がすぞ」
 ケンが浴衣の襟に手をかける。無言で私は頷いた。
 浴衣の下には一枚だけシャツを着ている。ケンは静かにそれをめくり上げる。
「……ぁ」
 体が冷気に包まれ、私は思わず声を上げる。
 それと同時に胸の奥から熱が込み上げてきた。ケンに見られてる……。
「さわっていい?」
「うん」
 ケンが私の双丘に触れる。堪能するように、ぐにぐにと弄ぶ。
「んっ……」
 やや乱暴な愛撫に、私は喉を鳴らした。
「痛かったか?」
「ううん、全然。……もっとさわっていいよ」
 主張し始めたその核に触れる。
「あっ……く」
 ケンの手は次第に下にさがっていって。
 そこに触れた途端、私は思わず高い声を上げてしまった。
「ひゃっ……!」
「飛鳥……、かわいいよ」
「当然……はぅっ、……だろ。……あっ」
 ケンの指の動きは次第に速くなっていく。屈強なその指先は、私の膣口を撫で陰核を押し潰す。声は抑えられなかった。
「け、ケンっ……はぁっ、んっ」
「飛鳥……っ」
 ケンが唇を押しつける。私もそれに応じた。
 容赦なく入り込み口内を蹂躙する舌。両手は相変わらず私の陰部に伸びている。下半身からは痛いくらいの刺激。見たことのない、見せたことのない私に昇華していく。
「んくっ、……あぁ、んっ!」
 数秒後、大好きな人の胸の中で、私は果てた。
「はぁ……はぁっ……」
 頭のなかがショートしているようだった。きっとケンの体がなかったら、私はそのまま倒れてしまっただろう。
 ケンを見た。彼は心配しているような、そんな顔をしている。そんな目でみなくても大丈夫なのに。背中越しに、ケンのそれが膨らんでいるのがわかる。
「ケン……」
 私は小さく唇を動かす。
「して」

「……いいのか? 本当に」
 大きく見開かれた瞳。
映る、私。
私の顔を赤くほてっている。
「いいよ」
 私は無理して笑って見せる。ほんとうは、心の中の欲求と必死に戦っていた。
「わかったよ、飛鳥……って、あ」
 ケンがふと眉をしかめた。
「どうしたの?」
 肩すかしをくらった私がそう返すと、ケンは困ったような表情をした。
「えーと、だな……」
 次の瞬間、私は考えが至った。ああ、なんだ、避妊具か。
「いいよ、別に、つけなくても」
「えっ、おま……それはっ」
「冗談冗談」
 私は鞄を手繰り寄せ、サイフからそれを抜き取った。
「なんでもってるんだよ……」
「ま、女子高生なんてそんなものだよ」
 ケンは赤らめたような顔をしながら、着物を脱ぎ、その封を切る。
 私は、ケンのそれをなるべく見ないよう心がけた。もし見てしまったら、おそらく忘れることは出来ないからだ。
「いくぞ、飛鳥」
「うん」
 ケンの顔だけを見つめる。真剣な瞳、赤い頬。すべてが愛おしい。
「行くぞ」
 私の入り口に、堅いものが押しあてられた。
「うん……きて」
 異物を飲み込む衝撃と痛み。思わず喉がなってしまう。でも、それは苦痛で、今にも投げ出したい感情なのに、でも。
 ――なぜか、幸せだった。
 痛んだ心を治してくれるような、幸福感、満足感。反射的につむった眼を開けると、うっすらぼやけた視界に、ケンが映る。それがどうしようもなく嬉しくて。
私は衝動をそのままに、思い切りケンにしがみついた――


 ***

 数時間前に見た月と今見る月とは、その存在自体が全く違っていた。
 あの後、私はケンにたくさん愛してもらった。ケンはというと何回目かのあとそのまま眠りに落ちてしまっていた。――まあ、なんて言えるのは心の中だけなんだけど。正直、明日顔合わせるのがつらいです。
 私は、いまだ事の痕残る、自分の体を見た。二人の体液が絡み合い、艶目かしく光っている。
「まったく、こういうのは男の役目なのにね」
 私は枕元からティッシュを引き寄せ、それらを念入りにふき取った。
 重い腰を引きずりながら立ちあがり、窓を開けて、充満したそういう匂いを解放する。
 三月とはいえ、夜は寒い。背後でケンがくしゃみをした。私は近寄って掛け布団をかけてやる。
「あ、っと」
 ケンの寝顔を数秒見詰めた後立ち上がろうとして、私はそれに気がついた。最後に、しなくてはいけないことがあったのだ。
 私は小さく唱えた。
「杉崎ケン。……あなたはこの夜のこと、明日の朝には忘れている。忘れている。忘れて、いる」
 私のおまじないは、昔から、不思議と叶うんだよ。ケン。
 そうして、私は眠りにつく。

 明日も幸せでいられますように。

 遠い願いは、部屋に反響することなく、消えた。







参考情報

2010/07/24(土) 22:29:33~2010/07/24(土) 22:32:18で4レスで投稿。
◆864fRH2jywさんの生徒会の一存のエロ小説を創作してみるスレでの初作品。


  • 最終更新:2010-07-25 21:55:50

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