ダストさんの小説12

本文

きっかけが何だったかなんて、そんなことは忘れてしまった。
それは些細なことだったかもしれないし、大きなことだったかもしれない。
もしかしたら、きっかけなんてなかったのかもしれない。
それでも、日常は変わっていく。
それは、何よりも尊い想いの発現―――――


「…………」
最近、何かおかしい。
周囲が、とか、世間が、とかじゃなくて、俺自身のことだ。
気がつけば、ボーっとしている。上の空になっている。
何かに……悩んでいるような気がする。
ただ……その何かが、よくわからない。
ずっと何かが心に引っかかっているのに、それが何だか分からない。
ただ、何かに悩んでいるんだろうな、ということしかわからない。
それだけしか……わからない。

~鍵~
「ただいまー……」
最近はこのことで悩んでばっかりだ。
何に悩んでるかわからないってことで悩んでるって……どんな奇抜な悩みだよ……。
せめてその悩みの原因が分かれば……何か変わんのかな……。
「おかえりっ、おにーちゃん!」
「……っ、あ、ああ。ただいま、林檎」
最近そのことで頭を悩ませてるせいか、林檎としゃべる時もうまく話せない。
「? どうかしたの? おにーちゃん」
「……いや、なんでもないよ、林檎」
「ふ~ん……? あ、今日学校でね~……」
そうして林檎が今日の出来事を話し始める。
林檎にも心配をかける。だから早く解決しないととは思っているんだけど……。
でも……本当に、わからないんだよ……何が何だか……。

~林檎~
おにーちゃんが最近ちょっと変です。
ぼーっとしているというか、思いつめているというか……。
何か悩んでいるのなら、林檎に話してほしいのに……。
話すだけでも、きっと違うはずなのに……。
解決はできなくても……話を聞くだけなら林檎にだって……。
でも、おにーちゃんはいつも「何でもない」ですませてしまいます。
林檎じゃ……力になれないの……?
そんなに……頼りない……?
おにーちゃんが辛そうなの……やだよ……。
ねぇ……おにーちゃん……。


~鍵~
「……ぎ…き。……さき。おい、杉崎」
「っあ、な、何?」
「何?じゃねぇよまったく……」
「わ、悪い……」
また考え込んでたのか……。駄目だなまったく……。
「お前最近なんか変だぞ」
「……自分でもそう思うんだけど……」
「何だ、自覚あったのか」
「ああ……でもさ……」
「でも?」
「なんでなのか、その理由が分かんないんだよ……」
「そのことで悩んでんのか?」
「ああ……」
「ふ~ん……まぁそこまで思いつめてるってことは……恋とかじゃないか!?」
「恋……ねぇ……」
「何で当の本人の反応のが薄いんだよ!」
「いや、だってさぁ……」
「一番ありそうな可能性じゃねぇか」
「だってそれなら俺が理解してないわけないだろ」
「わかんないぞ?深層意識がどうのこうのって話かもしれないじゃねぇか」
「どうかな……」
恋か……どうなんだろ……。
「まぁ、お前が悩むのはお前の勝手だがな。あんま周りの人間に迷惑はかけるもんじゃねぇぞ?」
「ああ……わかってる……」
「ん、ならいいけどよ」
迷惑か……やっぱり林檎もそんな風に思ってんのかな……。
……?何で……林檎?
何で…………。

「ただいま……」
「……おかえりなさい、おにーちゃん」
「ん、ただいま、林檎」
「…………」
「…………?」
林檎が何かを訴えるような眼で見つめてくる。
「林檎? どうかしたのか?」
「……おにーちゃん、何か悩んでるでしょ?」
「…………」
「りんごじゃ……力になれないの……?」
「……大丈夫だよ。何でもないから」
そう言って林檎の頭をやさしく撫でる。
「嘘だよ……おにーちゃん、辛そうな顔してる……」
「…………」
「話してくれるだけでも……兄妹でしょ……?」
「っ!」
何故か……心に深く突き刺さった。
そんなの、林檎の口から聞きたくなかった……。そんなことを、考えてしまって。
その理由も、やっぱりわからなかった。
「本当に大丈夫だから……な?」
「おにーちゃん……」
「今日は何か疲れたよ……もう、寝るからさ……」
そう言い残し、その場を後にする。
「おにーちゃんっ……!」
林檎が呼んでたけど、なんとなく振り向けずに、そのまま部屋に入った。
着替えもせずに、ベッドに倒れこむ。
もう寝よう……そうすればこの胸の痛いのも消えるだろう……。
そう思って、ゆっくり瞼を閉じた。

~林檎~
「おにーちゃん……」
やっぱり、話してくれませんでした。
「兄妹……」
本当はそんなこと、言いたくなかった……。兄妹なんて……言いたくなかった……。
「おにーちゃんは……どう思ってるの……?」
りんごには話せないって……そう思ってるの……?
『妹』には話せないって……そう、思ってるの……?
それじゃ……悲しいよ……。
妹じゃ……辛いよ……おにーちゃん……。


~鍵~
「ま~たしかめっ面してやがるな」
「ん……そうか?」
「ああ。何だ、まだ悩んでんのか?」
「…………」
「わかんねぇことを悩んだって仕方ねぇだろ。少しは頭を休めろよ。」
「そう……だな……」
「案外お前の気のせいで、実は何もなかった、なんてこともあるかもしれないんだからよ」
「ああ……もう考えんのはやめにしようと思ってたところだ」
「そうしろそうしろ。松原の奴も心配してたぞ。あんま迷惑かけんなっていったろ」
「そうだな……悪い……」
「俺は別にいいけどな。あんまり心配かけてやるなよ。松原にも、お前の妹ちゃんにも」
「……っ……!」
まただ……また……『妹』って言葉が重く突き刺さる。
それ……なのか……?林檎のことなのか……?
……ああ、くそっ!
「ちょっと顔洗ってくる」
「おう。行ってこい行ってこい」
俺は席を立ち、水道へと向かった。

バシャバシャ……
「ふうっ……」
顔を何度か水で洗い流し、少し気分もすっきりする。
ハンカチで顔を拭いた後、気分転換のために少し校舎をぶらつくことにした。
今はちょうど昼休みなので、廊下でおしゃべりしている生徒や、グラウンドでなにやらスポーツをしている生徒も見える。
楽しそうだな……とかそんなことを考える。
なら混ざればいいのだろうけど、あいにくと今はそんな気分にはなれない。
今……じゃないな。ここ最近ずっと……だ。
そう考えていると、後ろから声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん」
その声にばっと後ろを振り返る。
「今日は委員会あるから先に帰ってて」
「おう、わかった」
―――――というやり取りをしている兄妹がいた。
「……はぁ」
ため息をひとつついて、俺はまた歩き出す。
今の誰かに見られてたらちょっと恥ずかしいなーとか思いながら。すごい勢いで振り返ったし。
……でも、何であんなに過剰反応したんだろ……俺。
林檎だと思ったからかな……。でも何で……。
……ってまた『何で』って考えてるし。やめだやめ。
……そういえば林檎、最近あんま笑ってくれないな……。
昨日なんて泣きそうな顔になってたし。
どっちも……俺のせいなんだけどな。
俺が考え込んだりしてるせいで林檎にあんな顔をさせてる。
だからもう考えるのはやめだ。今日からまた元気にふるまおう。
林檎に心配かけないためにも。


~林檎~
「ただいま~」
扉を開けて家の中へ入ります。でも返事が返ってきません。
……誰もいないのかな。
リビングに行ってもやっぱり誰もいません。
「出かけちゃったのかな……」
りんごは制服を着替えて、リビングのソファに座ります。
おにーちゃんが帰ってきたら……どんな顔してればいいのかな……。
昨日のこともあるので、やっぱりちょっと気まずいです。
「でも……ここでりんごがぎくしゃくしちゃうのも変だよね……」
……よしっ。やっぱりいつも通りでいたいと思います。
いつもみたいに笑って、おかえりって言いたいと思います。
「ただいま~」
丁度おにーちゃんが帰ってきたみたいです。
……うんっ。いつも通りいつも通り。
「おかえり、おにーちゃん」

~鍵~
「ただいま~」
「おかえり、おにーちゃん」
林檎が柔らかな表情でそう言ってくれる。
その表情に、少し見蕩れてしまった。
「どうしたの?」
「え? あ、ああ。何でもないよ」
……もう心配するなって、言っておくか……。
「ごめんな林檎……最近ちょっと調子が良くなかっただけだから」
「そうなの? 風邪?」
「まぁ、そんなところだよ」
「今はもう大丈夫なの?」
「今はもう平気だよ」
林檎が俺の前まで来て、その小さな手を俺の額に当てた。
「う~ん……本当に大丈夫みたいだね」
その瞬間。
顔に一瞬で血が昇って行くのが、わかった。
「……っ!」
俺はすぐに顔を引く。
「だ、だから大丈夫だって!あっ、そうだ俺課題やんなきゃいけないから!じゃ!」
そう言い残して、俺はその場から走って逃げた。

~林檎~
「おにーちゃん……」
風邪引いてたって言うの……嘘だよね……。
もう平気っていうのも……きっと嘘……。
おにーちゃんはまだ……。
…………。
……りんごが触ったら、あんなに急いでいっちゃうなんて……。
嫌われ……ちゃったのかな……。
「…………」
おにーちゃんに触った右手がまだ熱い……。
その熱さが逃げないように、ぎゅっと手を握ります。
おにーちゃん……りんごは……おにーちゃんが……。

~鍵~
勢いよくドアを開け、背中でドアを思いっきり閉める。
「はぁ……はぁ……」
背中をドアに預けたまま、ずるずると腰を下ろしていく。
今ので……全部わかってしまった。
何に悩んでいたのか、そのすべてが。
「何だ……そういうことかよ……」
だから妹って言葉が嫌だったんだ。
だから兄妹って言葉が嫌だったんだ。
否応なしに、現状をつきつけられるから。
「はは……なんだよこれ……前より……辛いじゃねぇか……」
あの胸に突き刺さる痛みが、さらなる痛みを伴って、俺の心を容赦なく襲う。
「くそっ……痛ぇよ……林檎……」
林檎に触れられた額がまだ熱い。
その熱さと、胸の痛みが、これが真実だと俺に告げる。
もう、目をそらすことなんてできない、と―――――
ああ……俺は……


林檎のことが―――――好きなんだ。





切なく募っていくその想いは、伝えられなかった。
伝えられないその想いは、さらに募っていった。
辛いのに、伝えられなくて。
伝えられないから、また、辛くて。
芽生えた想いは、罪か、罰か―――――


悩みの原因が、ようやくわかった。
ずっとずっと俺を苛み続けてた、その原因。
それは……あまりに残酷だった。
叶うはずのない想い。
叶っては……いけない想い。
誰よりも林檎に抱いてはいけない想い。
……この想いに気づいてから、ますます林檎にどう接していいかわからなくなってしまった。
いや……態度はむしろ、前のように戻ったかもしれない。所詮は俺の主観だけど。
でも……一緒にいると、辛すぎて……。
一緒にいたいはずなのに……一緒にいたくない。
心は林檎を求めて、理性がそれを否定する。
相反する二つの感情に心が押しつぶされそうになる。
…………。
……俺は……どうすればいいんだろうな……。

~鍵~
「…………」
ただなんとなく窓の外をボーっと見つめる。
最近ますます無気力になってるな……。
「どうしたんだよ、杉崎。黄昏れちゃってさ。」
「ん……?ああ、何となくな」
「ふ~ん……そういえば、もう大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって……ついこの間まで『考える人』みたいになってたのはどこのどいつだよ。」
「ああ……そのことか。……まぁ、とりあえずは、な」
「悩みが何だったのか、わかったのか?」
「ああ……残念ながら、解決はしてないけどな」
「そうか……。なんか俺に手伝えることがあったら、相談に乗るぞ?」
「……いや。これは……俺自身がしなきゃいけないことだからな」
といっても……俺自身、どうにもできないかもしれないけどな……。
「そっか……まぁ困ったらいつだって頼れよ」
「ああ……サンキュ」
そう言って俺は席を立つ。
「どっか行くのか?」
「ちょっと気分転換に……な」
そう言い残して、俺は教室を出た。


「……ふぅ……」
俺はもはや日課のようになってしまった校内散歩をする。
理由も、行くあてもなく、ただぶらぶらと校内をほっつき歩く。
本当に理由なんて、何もない。
ただ、何もしないでじっとしていると、胸の中で疼いている想いに押しつぶされそうになってしまう。
まぁただ歩いているだけでそれが完全に抑えられるというわけでもないけど。
それでも、いくらかマシなような気もする。
「…………」
まったく……何でこんなことになってんだよ……。
……理由なんか一つだ。

俺が、林檎のことを好きになったから。

他でもない……たった一人の大切な妹のことを。
……いつから……なんだろうな。
いつから俺は林檎を妹として見れなくなっていたんだろう。
……そんなことは、些細なことだけど。
問題はいつだって今に起こることだ。
問題は……『どうやってこの想いをなくすか』……だ。
叶えるつもりなんてない。伝える気も……ない。
どんなに辛くても。どんなに伝えたくても。
そんなことは倫理的に許されることじゃない。
そんなことは……あってはいけない。
だから、何とかしてこの想いをなくさなければならない。
それがどんなに辛くても……それがきっと、一番いいことだから。
そんなふうに考えているときに、後ろから声が聞こえてくる。
「あ、おにーちゃん」
ああ……またあの兄妹かな。
ほんとに仲いいな……ちょっと前までの杉崎兄妹のようだ。
別に今も仲が悪いわけじゃないけど。
「ねぇ、おにーちゃんてば」
何だ、兄貴の奴気づいてないのか?それとも無視してるのか?
なんてやつだ。妹が呼んでるんだからちゃんと話をしてやれよ。
「けんおにーちゃん!」
へぇ……あいつもけんっていうのか。
名前が俺と一緒とはなんという偶然だ。っていうか、そろそろ話を聞いてやれって。
「もうっ……おにーちゃんてば!」
急に後ろから手をひかれる。
後ろを振り返ってみると、そこには我が妹、林檎がいた。
「どうして無視するのぉ……?」
見ればちょっと涙目だ。というより既に少し泣いている。
悪いことしたな……まさか本当に俺のこと呼んでいたとは……。
「うぅ~……」
「ごめんな林檎……ちょっとボーっとしてた」
そう言って林檎の頭に手をのせようとして……とめた。
伸ばしかけたその手を引っ込める。
たぶん林檎に触れたら……我慢できなくなるから。
その華奢な、小さな体を抱きしめてしまうだろうから。
思ってることすべて吐き出してしまうだろうから。
「おにーちゃん……?」
「……何でもないよ。で、どうした?」
「うん……今日は用事あるから、先に行っててって言おうと思って」
そっか……今日は一緒に帰れる日だったっけ。
そう言えば……父さんと母さんもいないんだよな……月に一度のデートの日だから。
「わかったよ。飛鳥にも言っとくから」
「うん。それだけだから。じゃあね」
そう言って林檎が手を振って去っていく。
俺も手を振り返し、その場を後にした。


「ケン、あんた最近さらにぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫なの?」
時は放課後。飛鳥と俺の二人だけの下校中。
「……別に平気だよ」
「嘘言いなさいよ。そんな辛気臭い顔して」
そんなに深刻な顔してんのかな……普通のつもりなんだけど。
「一応これでもあんたの心配してやってんだからね」
「なんだよ。いつもならなんかやらかして俺の頭痛の種増やすような奴だろ、お前は。」
「そんな状態のあんたになんかしても反応が面白くないじゃない」
「そんな理由かよ……」
「ほら、ツッコミに切れがない」
言われてみるとそうかもな……まぁ激しくツッコむ気になれないのは事実だ。
「まぁそれは冗談だけど……あんたが本気で悩んでるときには何もしないってだけよ」
「そうかよ……」
まったく……それも冗談なんじゃねぇだろうな。
「そんなわけないでしょ、失礼ね」
……なんか今ナチュラルに地の文と会話された気がするんだけど。
「気のせいじゃない?」
いや、気のせいじゃないだろ、これ。絶対わかってんじゃん。
「それだけあんたのことをわかってるってことよ」
……まぁいいや。
「……まぁ、あんたは私のことはあんまわかってくれないみたいだけどね……」
「ん? なんか言ったか?」
「別に……」
そう言って口を噤んだかと思うと、飛鳥は急に足をとめた。
「ねぇ……ケン。今から言うことを真剣に聞いてほしいの」
「……なんだよ」
今までに見たことがないくらい、真剣な表情を浮かべる飛鳥。
そしてゆっくりと、その口を開く。

「私は……ケンのことが好き」

「…………」
聞き間違いかと、思った。
あの飛鳥の口からそんな言葉が出るなんて、とても信じられなくて。
でも目の前の真剣な顔をしている飛鳥を見ると、やはりそれは聞き間違いなんかじゃないと思い知らされて。
どう答えを返そうかと思案しているとき―――――

ジャリ……

という、地面を踏みつける音。
その音がした方向を振り返ると、そこには、戸惑いを顔に浮かべた林檎がいた。
「り、林檎……」
「……っ……!」
林檎は一瞬顔をゆがめると、俺たちの横を走り去っていく。
「り、林檎っ!」
後を追おうとした俺の腕が、飛鳥につかまれる。
「飛鳥……」
「……返事を聞いてないよ、ケン」
返事……そうだよな……飛鳥に返事を返さないとな……。
…………。
俺が思っていること……。
俺の想い……今は林檎に向いてしまっている想い……。
でも……飛鳥なら……それを消してくれるかな……。
「飛鳥……俺は……俺も……」

~林檎~
家に着くと、急いで玄関のドアを開けて、自分の部屋に駆け込みます。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
……飛鳥おねーちゃん……告白してた……おにーちゃんに……。
…………。
おにーちゃん……どうするんだろう……。
やっぱり付き合うのかな……二人とも仲良しだし……。
そんなの……そんなの……やだ……。
……でも、おにーちゃんは追いかけてきてくれなかった。
それは、飛鳥おねーちゃんを選んだということ。
……追いかけてくれるわけないよね……りんごは……妹だもんね……。
でも……妹じゃ嫌だって思ってたんだよ……おにーちゃん……。
それも……もう終わりだね……。
「うぅ……ふえぇ……ひくっ……おにーちゃぁん……」
帰ってきたら……ちゃんと笑うから……。おめでとうって……言うから……。
だから……今だけ泣いてもいいよね……?


~鍵~
「ただいま~……」
飛鳥との話を終えて、俺は家に帰り、リビングのソファに腰を下ろす。
林檎にどんな顔すればいいんだ……。
そのことについて考えていると、制服から私服に着替えた林檎が二階から下りてくる。
「おかえり……おにーちゃん……」
明らかに無理をした笑顔を俺に向ける。
「…………」
「……おにーちゃん、飛鳥おねーちゃんと付き合うんでしょ?」
「え……?」
辛そうな笑顔のまま、林檎が続ける。
「二人がつきあうんなら……りんごも……応援するから……」
「…………」
「……おにーちゃんと飛鳥おねーちゃん……お似合いだと思うし……」
「……林檎……」
「飛鳥おねーちゃんも……本当にりんごのおねーちゃんみたいだし……」
もういいよ林檎……それ以上言わないでくれ……。
「りんごは……二人の妹で……」
そこまで言ったところで、とうとう林檎の瞳から涙がこぼれる。
「あ……れ……? 何で……涙なんか……泣かないって……決めたのに……」
堰を切ったように林檎の瞳から涙がぽろぽろとこぼれていく。
「……林檎……」
「……あ、あはは……とまらないや……もう……とまらない……」
流れる涙をぬぐおうともせず、林檎が再び口を開く。
「……やだ……」
「…………」
「おにーちゃんと飛鳥おねーちゃんが付き合うの……やだよ……」
そうして林檎の口から、本音が一つ、また一つとこぼれていく。
「やだ……おにーちゃん……行っちゃやだ……離れてっちゃやだ……」
それは―――――
「一緒にいたい……ずっと一緒にいたい……」
兄妹としてのものなのか―――――
「だって……りんごは……」
それとも―――――

「おにーちゃんのことが……好きなの……」

そう言って林檎が俺の胸に縋りついてくる。
「おにーちゃん……」
ああ……そういうことか……。
俺はただ、怯えていただけだったんだ。
倫理とか、そんな理由をつけて、逃げていただけだったんだ。
倫理をどうこう言うのなら、初めからこんな感情を抱いてはいない。
ただそれを盾にして、目をそむけようとしただけ。
なんて……情けない。
何のことはない。俺はただ―――――

兄妹だから、という理由で林檎に拒絶されるのを恐れていただけ。

とんだ臆病者だ。情けないにもほどがある。
何が倫理だ……。
俺が臆病なせいで、あれほど泣かせたくなかった林檎が泣いているんじゃないか。
もう……逃げることは許されない。
林檎だって、すべてを伝えてくれた。それがたとえ、兄妹としてのものだったとしても……だ。
飛鳥だって言ってた。『ちゃんと向き合いなさい』って。
だから、俺も、それに応えよう。
今伝えなかったら、きっと後悔するから。
俺はゆっくりと、林檎の背中に手を回す。
「あ……おにー……ちゃん……?」
「もう……泣かないで、林檎……。泣く必要なんてない……。俺は、飛鳥とは付き合わないから」
「え……?」
林檎が俺の腕の中で、驚いた声を上げる。
「林檎さ……さっき、俺の事、好きって言ってくれたよな?」
「うん……」
「すごく……嬉しかったよ。……俺も……林檎が好きだから」
「……っ……!」
「林檎の好きがどういう好きなのか、よくわかんないけど……俺は、林檎が好きだ。兄妹としてじゃなくて、女の子として、好きだ」
「おにーちゃん……」
林檎の声がまた涙声になる。
「林檎は? どういう好き……なのかな?」
「……りんごも……兄妹、じゃ、なくて……ひくっ……おにー、ちゃんを……ううぅぅ……」
もうこれ以上言えそうにないな……。
「もういいよ……ありがとな……」
そういう俺も、正直泣きそうだった。
絶対に叶うはずのない想いだと、そう思っていたから。
だから、今こうして抱き合っているこの時が、たまらなく幸せだった。


「ねぇ……おにーちゃん……」
「何だ?」
「りんごのこと……好きなら……チュー、して……?」
「……うん……」
ゆっくりと、林檎の唇に自分のそれを寄せていく。
「ん……」
軽く、一瞬だけ触れ合わせる。
「もっと……」
林檎の懇願するような瞳と言葉に引き寄せられ、もう一度唇を寄せる。
今度はしっかりと唇の感触が分かるように、唇を触れ合わせる。
「ん……んふぁ……んん……」
ゆっくりと、唇を離す。
「……もっと……おにーちゃん……もっとぉ……」
要望にこたえるように、また唇を重ねてやる。
「んふ……ちゅ……んんぅ……」
唇で唇を軽くはさみ、舌先でつつく。
「んっ……んぁ……ちゅ……んちゅ……」
林檎は戸惑いがちに、そろそろと舌をのばしてくる。
「ん、ふ……んむっ、んっ……おにーちゃ……んん……」
ぎこちない動きだけど、林檎も頑張って舌を絡めようとしてくれる。
「んっ……んぅ……ん、ん……ぷはっ……はぁ……おにーちゃぁん……」
「林檎……」
「もっと……したい……」
そういうと林檎は自分から唇を重ね、舌を差し入れてきた。
「ちゅぷ、れろっ……んふぁ、んっ……んんぅ……」
小さな舌を懸命に動かして、俺の舌に絡めようとしてくれる。
「んむっ……んっ……ちゅ……んふ、ん、んぅ……ぷあっ……はぁ……あぅ……」
唇を離すと、蕩け切った表情を俺に向けてくる。
そのまま林檎を、やさしくソファに横たわらせる。
「林檎……俺、我慢できないかもしれないから……」
「うん……おにーちゃんになら……乱暴にされても……いいよ……」
「林檎……」
そこまで俺を想ってくれていることがすごくうれしい。
だから、できるだけやさしくしたいと思った。
「それじゃ……触るぞ……?」
「う、うん……」
頷く林檎の小さなふくらみに、服の上からそっと触れる。
「あ……」
林檎が小さく声を上げる。
林檎の胸はまだ未発達ながらも、確かな柔らかさがあった。
「うぅ……胸……おっきくないから……はずかし……」
林檎は顔を真っ赤にしながら、体を固くしている。
緊張がほぐれるように、額にやさしくキスをしてやる。
「気にすることじゃないよ、林檎。大きさなんて、俺は気にしないから」
「あ……う、うん……」
林檎の体から、少し力が抜ける。
俺は、胸の上に置いた手を、そっと動かし始める。
「あん……ん……」
甘い声をもらしながら、林檎が身をよじる。
指の動きに合わせて、柔らかいふくらみが形を変える。
「ふぁ……ん、あ……おにーちゃん……」
切なげな吐息、手の平に感じるぬくもり。それらすべてが愛しくて、もっと林檎を感じたいと思ってしまう。
「林檎……脱がすよ」
胸のあたりにボタンがあるタイプの服だったので、一つ一つボタンをはずしていく。
ボタンをはずし終えると、真っ白い、シンプルな下着が現れる。
林檎らしいな、と思いながらそれをたくしあげると、透き通るような肌と、二つの小さな突起が顔を見せる。
「うぅぅ……」
林檎が心底恥ずかしそうにしている。
そんな様子も、とても可愛らしいのだけれど。
「かわいいよ、林檎」
「あぅぅ……嬉しいけど……はずかしい……」
恥じらう林檎の胸を、掌ですっぽりと覆う。
「んあ、やぁん……ん……ふぁ……」
目を閉じて、甘い声をもらす林檎。
俺は親指の腹で、突起を刺激してやる。
「んやぁ……んんっ、んっ……はぁっ……おにーちゃん……んぅ……!」
片方の突起を口に含み、舐め、転がす。
「あっ……んぅ、やっ、あぅ……ひゃうぅ……!」
林檎が快感に身をよじる。
それでも俺は刺激をとめない。唇で突起を甘噛みする。
「んふぁ……ああっ、おにーちゃん……もう……これ……」
「気持ちいいの?」
「あ……うぅぅ……」
またも林檎が顔を赤くする。
その唇に軽くキスをする。
「じゃあ、今度は……こっちかな」


俺は手を林檎の秘所のほうへと滑らせる。
林檎は下にスカートをはいているので、少しめくりあげると、やっぱり白い下着が現れる。
そしてそれは……濡れていた。
「林檎、もう濡れちゃってるよ」
「だ、だって……それは……おにーちゃんが……」
「うん……そうだな。でも、ちゃんとしとかないと」
そう言って俺は指を下着の上から林檎の秘所に触れさせる。
「あっ……んあぁ……おにーちゃん、そこは……んんっ……!」
「痛い?」
「痛くはないけど……んぅ……んはぁ、あっ、やっ……」
恥ずかしい……のかな。
そう思いながらも、俺は指と掌を使って林檎の秘所を撫で上げる。
「あ……あ、んぅ、ふあ……ん、くっ……んんっ……!」
林檎が甘い声をあげてくれるのがうれしくて、手の動きを少し早める。
「んふ……んあ……んっ……おにーちゃん……」
「どうした?」
「えと……あの……その……ちょ、直接……」
林檎がもじもじと言葉を伝えてくる。
直接……直接触ってほしいってことかな。
「ん、わかった。じゃあ、脱がすぞ?」
「う、うん……」
林檎の下着を脱がしていく。
そこには、自分もろくに触ったことがないだろう林檎の秘所があった。
「あ、あんまり見ちゃ、やだ……」
「ご、ごめん……それじゃあ……」
俺はそっと林檎の秘所に指をのばす。
指が触れた瞬間―――――
「ふああぁぁっ!」
一際大きい声が林檎から発せられる。
「痛かったか?」
「ん……大丈夫。いたくない……よ。ちょっと……びりびりって、きただけ」
「そっか……」
安心して俺は指を動かし始める。
割れ目に沿うように指を動かしていく。
「はぅぅ……んあっ、あっ、あっ……ふぅ……はぁぁ……」
林檎がさっきまでよりも甘い声をもらしてくれる。
その声がもっと聞きたくて、少し指の動きを速める。
「んやっ……あ、くっ……ん、んっ……ふあっ……!」
中指が、林檎への入り口を探り当てる。
「林檎……指、入れるぞ?」
「あっ……うん……」
林檎の了承を得て、俺はゆっくりと林檎の中へと指を沈みこませていく。
「あっ、はぁ……ん、くっ、うぅん……んふぁぁ……!」
「痛くない?」
「んっ……だいじょーぶ……はぁぅ、んぅ……んっ……」
第二関節あたりまで入れて、出す。また入れて、出す。
それを繰り返していく。
「んぅ……おにーちゃんの……あっ、んんっ、んっ……やぁぁ……」
奥に入れすぎないように、浅い所で指を小刻みに動かす。
「んあっ!あ、あっ、おにーちゃん……おにーちゃ……ん、あ……」
少し指の動きを速め、出し入れする。
「んっ、ふぅ……あっ、ん……んんっ、んっ……あぁぅ……」
もうそろそろ大丈夫かな……。
「あっ、んぅ……はあぁ……ん、くっ……おにーちゃん……りんご……もうだいじょーぶだから……」
「……うん。それじゃ……」
俺はゆっくりと林檎の中から指を抜いた。


俺はズボンのベルトをはずし、張り詰めた自分のモノを取り出す。
「わぁ……」
林檎がぽけーっと俺のモノを見つめている。
俺は特にコメントを返さず、モノを林檎の秘所に触れさせ、こすりつける。
「あ、う……んん……おにーちゃんの……熱い……」
「林檎のここも……すごく熱くなってる……」
俺はモノもしっかりぬらすと、先端を入り口に宛がう。
「いくぞ……」
「うん……来て……おにーちゃん……」
腰に力を込めて、ゆっくりと押し進めていく。
「あ……く……んっ、はぁ、はぁ……あ、ああ……!」
林檎のそこを押し開くようにして、ゆっくり進んでいく。
「くうっ、あ、う、ううっ……く……」
痛みと恐怖に、林檎が歯をくいしばって耐えている。
「林檎……!」
「おにーちゃ……来て……全部……ちょうだい……おにーちゃん……!」
林檎の言葉を受け、腰を一気に押し進める。
「あ……う……んぅぅぅぅ~~っ!!」
林檎が痛みに悲鳴を上げるのと同時に、俺は林檎の最奥までたどり着く。
「ん……くっ……はぁ、あぅ……はい……った……? おにーちゃんの……全部……」
「ああ……入ったよ……全部。ごめんな……痛かったよな……」
林檎の瞳からこぼれた涙を指でぬぐう。
「謝るなんて……変だよ……りんごは……すごくうれしんだよ……? おにーちゃんと……こうしてるのが……」
「林檎……」
「……いいよ、動いて……」
「でも……」
「りんごはへーき……それに、おにーちゃんにも気持ち良くなって、ほしいから……」
「……わかった……ありがと……」
林檎にお礼を言いながら、俺は深々と入り込んだものを、ゆっくりと引きぬいた。
「くうっ……う……う……」
目をぎゅっと閉じて、林檎は痛みに耐えている。
「おにーちゃん……お願い、だから……続けて……んんっ!」
林檎が俺を求めてくれる。
「おにーちゃん……んぅ……ん、くっ……おにーちゃん……」
林檎は苦痛にゆがむ顔で、懸命に笑おうとしてくれる。
また腰を引き、入り込む。
抜いて、入れて。ゆっくりとした出し入れを繰り返す。
「んくっ……あ、はぅっ!あ、あくっ!あ、ああ……んっ、く……うあ……あ……!」
痛みに耐える林檎の、こわばった体。
こんなに林檎が痛がっているのに、俺はモノを出し入れするのが、気持ち良すぎて。
「おにーちゃん……いい……? 林檎の中……気持ちいい……?」
「ああ……すごく、いいよ……」
俺だけ気持ち良くなって、ずるい気がする。林檎のことも気持ち良くしてやりたいのに……。
「いいよ……おにーちゃんが気持ちいいなら……んっ……りんごは……嬉しいから……。」
「林檎……」
気持ちの赴くままに、林檎のすべてを感じる。
声も、匂いも、温もりも。
俺のすべてを、林檎のことだけが塗りつぶしていく。
「おにーちゃん……あ、んくっ、はあっ! あ、ああ……おにーちゃぁんっ!」
また出し入れを繰り返していく。
「ううっ、あっ! はぅ……あ、ああ……あ、くっ! ん、あ、ああっ、あうっ!」
体中が、頭が、燃えるように熱い。
「ん、く……あ、ああ……ん、んくっ! あ、は……んんっ」
林檎が、苦しげな表情を浮かべている。
罪悪感のようなものを感じつつも、俺の動きは止まらない。
「あっ、んんっ、はっ、あうっ! ん、んくっ! あ、ああっ」
小さな体をくねらせる林檎。
「林檎っ……!」
もう……限、界……!
「うう……うああっ!」
「ああっ! あ、んあああああああっ!」
林檎の中で、快感がはじけた。
林檎の中を、吐き出された俺の欲望が満たしていく。
「あ……あ……出て……る……おにーちゃんの、熱いの……いっぱい……」
「ごめんな……中に出しちゃって……」
そっと、頬に手をあてる。
林檎は愛おしそうに、自分の手を、俺の手に重ねる。
「ううん……嬉しい……すごく……嬉しい……」
林檎はそう言うと、そっと目を閉じる。
俺は要望にこたえるように、やさしく、甘く、唇を重ねた。


「すぅ……すぅ……」
後処理が終ったあと、林檎は眠くなってしまったらしく、今は俺の膝の上で眠っている。
林檎の髪をなでながら、ふと、物思いにふける。
何か今日はいろんなことがあったな……。
飛鳥にも……悪いことしたかもしれないな……。

「飛鳥……俺は……俺も、飛鳥のことは、好きだよ」
「…………」
「でも、飛鳥が言うような好きじゃないんだ。そういう好きじゃ……ない。だから……お前の想いにはこたえられない」
それに……やっぱり今は、どうもそういう気になれない。
「……そう」
そう言って飛鳥はまた足を進める。
「まぁ予想通りの結果ね」
「予想通り?」
「わかってたわ。あんたにふられることくらいね」
「なら、何で……」
「言わなきゃおさまりつかなかったのよ。何も言わないまま終わるなんて、悔しいでしょ」
何でもないふうに飛鳥は言う。でも、その姿は少し悲しげだった。
「あたしのこと振ったんだから、あんたもさっさと解決しなさいよ。まぁ……そんな簡単に割り切れるものじゃないだろうけど、兄妹だし」
「おまっ……なんでそれ……」
「言わなかった? あんたのことなんてあんた以上にわかってるの」
ほんとに……こいつにはかなわないな……。
「そんなの、当然でしょ」
うん、だから地の文とナチュラルに会話すんのやめようか。なんか怖くなってきたから。
「あら、これは失礼」
……もういいや。
「じゃあ、傷心の私は先に帰るわ」
そう言って飛鳥が俺に背を向ける。
「最後に一つ、言っておいてあげる」
俺に背を向けたまま飛鳥が俺に言葉を投げかける。
「ちゃんと向き合いなさい。自分と、林檎ちゃんと。後悔しないように」
そう言って飛鳥は走り去って行った。

結局のところ、きっかけはあいつに貰ったってことなのか……。
ちょっと悔しいような気もする。この結果すらも、あいつは見透かしていたようで……。
まぁでも……感謝くらいは、しといてやる。お礼なんかは、絶対しないけど。調子のるだろうし。
「おにーちゃん……」
林檎が寝言をつぶやきながら、俺の手を握ってくる。
俺もその小さな手を、そっと握り返す。
絶対に……この手を離さないように。
俺は、自分も睡魔に襲われて眠りにつくまで、ずっと林檎の髪をなで続けていた。


参考情報

前編(中線まで)は2010/09/22(水) 23:00:07~2010/09/22(水) 23:01:11で4レスで投稿。
後編(中線から)は2010/09/25(土) 17:52:08~2010/09/25(土) 18:02:35で8レスで投稿。
ダストさんの生徒会の一存のエロ小説を創作してみるスレで12作品目。

  • 最終更新:2010-09-27 04:00:00

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード