ユーリさんの小説9
本文
はぁ……死にたい。
やっぱり生徒会長なんてなるべきじゃなかった。
細々した作業をしないといけないしなにするにもいちいちぼくに確認がくるし全校生徒の前で話さないといけないし。
踏んだり蹴ったりだ。
これというのも春秋の奴のせいだ。
そもそもこいつがぼくを他薦しなかったら……
ああ、今すぐにでも右前隣にいるこの横面をぶん殴ってやりたい気分になった。
こいつが考えていることは理解不能。
告白なんてしてくるし。
まったくもって何を考えているのかわからない。
日向者と日陰者の境界をずけずけと踏み込んで。
……ん?でもぼくは人気投票で9割もとった。それってぼくは人気があるということか?
有り得ない。
やる気がなくて無愛想で、無口。
社交性が皆無で、人と交際する気もない。
自己分析くらいはできる。改めるつもりはないが。
そんな人間が一位なんて有り得ない。
でもとったのは事実。
わけがわからない。
考えるのも疲れてきた。寝よう。お休みパト〇ッシュ。
「あ……」
生徒会会議の途中、雪海が寝だした。
なんか、パ〇ラッシュとか言ってたけど……まあ、いいや。
ちなみに、友人に聞いた話だといつも彼女は授業中もぐっすりと眠っているらしい。
それでもまるで授業をちゃんと聞いていたかのように、テストで点数を取れているのだから、すごいと思う。
雪海が上位発表で名前が書かれなかったことはない。もし真面目に勉強をしたら、確実にトップに上り詰めるだろう。
しかし、彼女は自分がやっていることを他人に中断されるのを極端に嫌っている。
なので、雪海が寝だした以上起こすのかどうかが迷う。
他の子たちも、雪海をちらちらと見ては会議を進めていた。
生徒会長という立場、最終的に雪海が判断するので、生徒会的には非常に困る。
だが雪海を起こすのは、逆鱗に触れるのも同然だ。一度体感してわかっている。
あれは阿修羅すら凌駕する存在だった。
……まぁ、なんとかなるだろう。
雪海を抜いて会議を進めよう。
「……み……」
「…きみ……」
「雪海」
「………ん」
揺さぶられたので、誰かと思ったら春秋だった。
こいつに起こされたとなると、ムカッときたが、既に会議は終了していたようで、ぼくと春秋以外は誰もいない。
「……帰る」
春秋にあたっても何の得にもならないので、ぼくはそう言ってさっさと帰ろうとする。
「待ってくれよ」
春秋が勝手にぼくの隣につく。
毎度毎度追い払うのも面倒なので、もう好き勝手にさせていた。
「……………」
「……………」
そうして無言のまま、帰り道を歩く。
辺りは静かで人も全く通らず、まるでゴーストタウンのようだ。ぼくとしては、人混みが多いよりこっちの方がいい。
「あのさ……」
などと思っていると、いきなり春秋が話しかけてきた。
「……何?」
「はっきり言うけど、会議中に寝るのはどうかと思うんだ」
ああ、そんなことか。
「キミは生徒会長だし、会議でも重要だから、寝るのはやめてほしいんだ」
春秋はこういうことに関しては、妥協を許さない。
妙に正義感の強い奴だ。まぁ、それが春秋らしいが。
ぼくは沈黙を保ち、春秋の奴を見つめる。春秋も真剣にぼくを見つめてくる。互いの目を見つめ合ったまま、しばらく時が止まったかのように思えた。
「……わかった。努力はする」
結局、ぼくは渋々春秋に従った。このまま睨み合っていれば、もうすぐ放送されるサザ〇さんに間に合わない。
「雪海ならわかってくれると思ったよ」
春秋はニコニコのスマイルだ。
歯がキラーンと輝きそうなほど。
……きもい。きもいセリフと相乗して更にきもい。
「それじゃ」
「あ、まって」
さっさと別れようとしたら、引き止められた。何だ、こいつは?ぼくは早くサ〇エさんを見なければならないのに。
妙に俯いたりもじもじしたり頭を掻いたりと、こっちの神経をいちいち逆撫でする行動をとる。
「えっと、その……」
「何?言いたいことがあるならさっさと言って」
イラっときて奴の発言を促した。これはさっさと帰りたいからだ。
「明日……暇、かな?」
ひょっとしてこれはぼくを誘ってるのだろうか?
「暇だけど」
そう言い放ったら春秋は嬉そうに慌て。
「じゃ、じゃあ!明日僕に付き合ってほしいんだ!」
などと言ってきた。オーバーリアクションな奴だ。
「何がしたいの?」
「えっと、買い物に付き合ってほしいんだけど」
「……………………………」
「……………あの…………」
「……………………………」
「………………えっと……」
「……………………………」
「…………………その……」
ぼくの無言の重圧に耐えられなくなったのか、春秋は畏怖するように縮こまっていった。
買い物に誘うのは普通女のほうからじゃないのか?
まぁ、暇つぶしにはいいだろう。あくまで暇つぶしだ。
「何時?」
それだけで春秋の顔がぱあっと輝いた。相変わらずきもい。
「そ、それじゃあ12時にあの噴水の前で!」
春秋は言いたいだけ言って、さっさと去っていった。
ぼくは2秒でその選択を後悔した。
………疲れた、帰ろう。サザエ〇んがぼくを待っている。
8時に起きてしまった。もっと寝ていたかったのに。
二度寝する気も失せたので、ベットを降りる。
「あら、珍しいわね。雪海が休みに早起きするなんて」
母が台所に立っていた。もう父を見送ったのだろうか。
「今日、でかけるから。ご飯は?」
すると、母は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。
「雪海が休日に出かける?……天変地異が起こるわ」
などと信じられなさそうにそう呟いた。
「何かあったの?もしかして鬱?自殺しにいく気!?やめなさい!人生はもっと楽しいことあるわ!」
また飛んだ発想をする。母の思考回路は一度メンテナンスを受けた方がいい。
「友達と買い物に行くだけ」
「友達!?もしかして男、男なの?雪海に男。すごいじゃない!ねぇ、どんな人?かっこいい?知的?かわいい系?ねぇ教えてよ」
矢継ぎ早に言葉を浴びせてくる。
またバグったか。メンテナンスじゃなくて、取り替えてもらった方がいいな。
春秋も春秋だが母も母だ。
まったくもってうっとうしい。
「男なんかじゃない。ただの暇つぶし」
「暇つぶし?まぁ、そう言うことにしときましょう。ご飯ね、豪勢にいきましょう!」
母はにっこにこの笑みを浮かべながら、着々と朝ご飯を作っていく。
似合わない鼻歌なんて歌って超ご機嫌のようだ。
朝食は類を見ないほど豪華だった。
この点は春秋に感謝しておこう。
「ごちそうさま」
朝食を食べ終え、母の追跡をさっさと振り切って、自室に戻った。
そして時計を見る。9時40分。
朝食を食べるだけにしてはかなりの時間を費やしたが、それでもまだまだ時間が余っている。
そうだ。買い物プランでもたてておこう。
それから服も何を着ようかな……
…………ん?ひょっとしてぼくって楽しみにしてる?
「はぁ、緊張するなぁ」
チラッと腕時計を見る。
10時30分。
約束より1時間半も早いが、いてもたってもいられなくなって来てしまった。
雪海にとっては何ともないかもしれないが、僕にとっては女の人と2人で待ち合わせて遊びに行くことは、デートと変わらない。
それに僕は一度フられている身だ。
余計に緊張する。
ともかく、待ち合わせの噴水に行こう。
……………………え?
「ゆ、雪海……!?」
「あ、春秋……」
びっくりした!まさか待ち合わせ場所にいるとは思わなかった!
雪海もびっくりしているような顔だ。そんなに表情には出てないが。
「……………」
そして僕はあっけにとられた。
何故なら雪海の私服がとても綺麗だったからだ。
ゆったりとした、黒いモノトーンのブラウス。黒を基準としたフレアースカート。その下に灰がかったジーンズという、ダブルボトムスタイル。ローファーはいつも学校では見かける奴だった。
「……何じろじろ見てるの」
「いや、あ、ごめん。雪海が綺麗だったから……」
「うるさい……」
そう言うものの、雪海もまんざらでは無さそうだ。若干頬が朱に染まっている気がする。はたから見れば無表情だけど。
「あれ?まだ10時半なんだけど」
「うるさい、暇だったから来ただけ」
こ、これって期待していいのか!?
嬉しいを通り越してなんか怖いんだけど!
でも………
「……何にやにやしてるの、気持ち悪い」
いぶかしい目を向けてくる。
嬉しくてにやけが止まらないんだけど。
必死ににやけを抑える。
「ご、ごめん!嬉しくて顔が戻んないんだ」
「………ッ!」
次の瞬間、僕はパンチの雨を浴びた。
雪海のあの表情は照れ隠しだと信じたい。
……ぐはっ………
まったくこいつは何を考えているのかわからない。
あのにやけがあまりにきもくて、思わず1秒に7発も殴ってしまったが、春秋のやつは嬉そうだった。
あいつは真性のドMかと思った。そうかもしれない。殴られても嬉そうにするし、何度も断っても迫ってくるし……
ともかく、春秋が元通りに戻ったところで、予定よりかなり早いがデパートに行くことにした。
つかず離れずの距離でぼくは歩く。
春秋がぼくに色々と話しかけてくるが、ぼくは適当に相づちをうつ。
そうこうしているうちにデパートについた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
春秋は改まってぼくに礼を言ってきた。
「別にいい」
ぼくは春秋の荷物を持っていた。
春秋も荷物で両手がふさがっている。それほど買い込んだということだ。
まったく手がだるい。
ちなみにぼくはジャ〇プを買った。今週のナ〇トが楽しみだ。もちろんワン〇ースも忘れない。
「ねぇ、こんなに買って何を作るの?」
ぼくは春秋にそう問いかけた。
今日買ったのは大量の食材。
親にでも頼まれたのだろうか?
「自分で作って食べるんだ。そうすれば食費の節約にもなるしね。1ヶ月に一度、特売日にこうやって買い込むんだ」
「ふぅん。……親はいないの?」
「親は2人とも海外出張でいないんだ。だからぼく1人で生活してる」
へぇ、若干春秋の奴を見直した。
今度どこかの母親でも進呈してあげようか。
「あ、ここが僕の家」
春秋が指さしたのは、普通の一軒家。
てっきりぼくはアパートで暮らしているのかと思った。
「さ、上がって上がって。何か飲み物取ってくるね」
そう言って春秋は荷物を置いてさっさと行ってしまった。
ここで黙って帰るのもなんとなく後味悪いので、素直に上がっておこう。
飲み物も出るし。
「えっと、飲み物飲み物」
僕は冷蔵庫から飲み物を探す。
これは……タバスコ。これは……めんつゆ。これは……タバスコ。これは……タバスコ。
…………なんでタバスコばっかなんだ。
僕の冷蔵庫に何があったんだ?
まぁいいか。
…………だめだ、ない。
今お茶切らしてるし、水を出すのもなんか悪い気がする。
……ん?何だろうこれ?
僕は冷蔵庫の隅っこに隠れるように置いてあるペットボトルを取った。
中にはオレンジジュースと思われる、やまぶき色の液体が入っている。
だがラベルは剥がされてあって、わからない。
その前に僕ってペットボトル買ってたっけ?
……まぁ、いいか。これで。
「お待たせ」
コップにオレンジジュースを注いで、リビングでジ〇ンプを読んでいる雪海に渡した。
「ん、ありがと」
そして雪海はそれをごくごくと飲む。
「……ん」
雪海は半分ほど飲んだコップをテーブルに置き、またジャン〇を読み始めた。
僕は他人の家で〇ャンプに夢中の雪海に苦笑しつつ、買った食材の整理を始めた。
…………………………………
「ふぅ……」
それなりに整理がついたところで、雪海をちらっと見た。
ジャン〇を手に持ち、ずっと読んでいる。あれ?
「雪海?」
「……なに?」
何だろう、何か変だ。
無口無表情は変わらないが何か変だ。
違和感がある。
「雪海、どうかした?」
「べつにどうもしてない」
普段どうりにしゃべる。特に変わった様子などなかった。
「そう、それならいいけど」
杞憂だったようだ。
「ねぇ春秋」
「何?」
「春秋って3人兄弟?」
「は?」
我が耳を疑った。今なんと言った?
「しかも瓜二つ、いや三つ?」
意味がわからない。今ここには僕と雪海しかいないというのに。
何故か雪海の飲んでいたオレンジジュースが気になった。
試しに飲んでみる。
ほのかな甘味の中に若干の苦味……
って酒!?なんで!?
酒なんて買っていないのに!
は、あいつか!僕の家でこっそりと酒を持ち込んで飲んでたのは!
く、家では飲めないからといって……!
ということは、もしかして雪海って……酔ってる?
でも呂律も回ってるし、いつもの無表情。
はたから見れば変わりない。
でも酔ってる。
不思議な酔いかただが、なぜか雪海らしいと僕は思ってしまった。
とりあえずどうしよう。
酔ってる人の介護なんてしたことないし。
とりあえず横にさせよう。
「雪海、ちょっとごめん」
そう言って雪海を抱き上げる。
うわっ、軽!柔らか!なんか同じ人とは思えないくらいだ。
「春秋っておもしろい」
ダメだ。完全に酔ってらっしゃる。
僕は酔った雪海を連れてベットへ向かった。
「よっと」
雪海をベットへ寝かす。
雪海は酔っているからか、ベットの心地よさに浸るように体をあずけている。
自分の部屋に帰ったかのようだ。
「春秋」
「なに――――わぁ!」
いきなり手を引かれた!そして雪海は突然僕を抱きしめてきた!?
顔に柔らかい感触が当たる。何かかは聞くまでもない。言うまでもない。
ってうわぁーーーーー!
何とか雪海の腕を振り解……こうとしたが、細い腕からは、想像もつかない力で抑えつけられる。
だが、なんとか振りほどいた。
突然の出来事に、自分の顔が火照っていることがわかった。
「ゆ、雪海!なにをんむっ!」
また突然、次はキスをされた。
雪海の唇って柔らかい……
何だろう、同じ唇のはずなのに、どうしてこんなに違うのだろう。
って違う!僕はこんなの……
今度は更にがっちりとホールドされていて、振り解けない。
たっぷり10数秒間唇を交わし続けた。
「雪海、何を」
「好きだから」
「え?」
「春秋が……好きだから」
それは、僕が一番聞きたかった言葉だ。
胸が更にドキドキしてくる。ドキドキしすぎて呼吸がままならなくなってきた。
でも……違う。
僕は、こんな雪海からこんな形で「好き」なんて言われたくない。
雪海は酔っているんだ。本心ではなく、自分でも理解不能の行動をとっているんだ。
決して、僕が好きだと言うことではない。
「雪海、ありがとう。でも僕は、酔った君から好きって言われても、何もしてあげられないよ」
「…………鈍感」
「へ?」
「この、鈍感春秋!」
「な―――ムグッ!」
雪海は僕の胸ぐらを掴んで強引にベットに横たわらせ、その勢いのまま半回転。
押し倒させるような形のまま、いつの間にか唇を合わせていた。
僕の体の上に、雪海の全体重が乗る。
女性特有の柔らかい体つきや、鼻にかかる甘い体臭は、心臓の鼓動を更に早く、早く動かさせる。
「んっ……」
数秒してから唇を離す。
雪海の、吐息が顔に当たる。
「ねぇ春秋。ほくは君が好きだと言った」
「え?あ、うん」
雪海の唇の柔らかさや、吐息のほのかな甘さ。女性にしかない、独特の柔らかさに胸に当たる豊満な柔らかいもの。
その何もかもが僕をくらくらと酔わせていった。もう息もままならなくなってくる。
「春秋は、ほくの事を好きなんだな?」
「う、うん……」
雪海は、無表情ではなく、恥ずかしげに赤面して、言った。
「なら……ほくを…………だ、抱け……」
「…………えぇあぁっ!?」
その爆弾発言に、僕は果てしなく驚いた。
………………………………
ぼくの発言から、春秋はタイム〇トップを食らったかのように、止まった。
そして数秒後に、ハッとして、慌てる。
「えぇえ!?今、何て言った!?僕の耳が悪くなった!?」
あまりのテンパりように、言ったぼくが逆に呆れた。
それでも、ぼくは顔を背けながら言う。
「だから……抱け、って言ってるんだ」
顔が熱くなっているのがわかる。
こんな恥ずかしいのは初めてだ。春秋のくせに。
「…………………」
返事がない、ただのしかばねだと思ったら、フリーズしていた。
全く……こっちの気持ちも知らないで……!
「!!?!?」
瞬間、春秋の体から危ない音が鳴り響いた。原因は勿論ぼくだ。
人体の急所の集まりである上半身前面の、ありとあらゆる場所を的確に、鋭く殴ってみた。
いわゆるショック療法と言う奴だ。
「………………………」
次は気絶してしまった。
…………こいつは……!
もういい、勝手に好き勝手やらせてもらう。
「………………」
何を好き勝手にするんだ?そもそもぼくはこいつに何をしたいんだ?
ぼくは春秋が好き……らしい。
本当に、さっき気が付いた。いや、付いてしまった。
あれだろうか?ぼくは自分の気持ちにも気づかない鈍感野郎、ということか。
確かに春秋がいなければ、本当に退屈な毎日だったのは否定しない。
くだらない日常のスパイス的な感じだった。
春秋と居てて楽しい、と本当は思っていたのだろう。その時から特別扱いしていたのだろうか?
何だか自分が自分ではないようだ。
ぼくは、眠っているように気絶している春秋を見る。
…………変だ。
いつもきもいきもいと言っていたのに、何だか胸が痛くて、変で、気持ち悪い。
これが……好きという感情なのか?
春秋のことが頭に思い浮かぶと、ぎゅうっと心臓が押しつぶされそうだ。
ぼくは……何がしたい?何をされたい?
わからない。何もかもがわからない。
春秋の顔に触れてみる。だけど、それで何がしたいのかは自分でも知らない。
そういえば、さっきぼくは抱けといった。
それは、恋人同士がする好きの確認方法だと聞いたからだ。
抱かれれば、春秋への好きがより実感できるのだろうか?
また、春秋の好きがわかるのだろうか?
怖い。自分の全てが崩れていきそうだ。
もう、何も考えられない。
考えられない……
「うっ……」
鈍痛とともに、目が覚めた。
部屋はもう真っ暗だった。それが、どれだけ時間が経ったかを示している。
「雪海……?」
明かりを点ける。だけど雪海は、いない。
家中を探して見たけれども、いない。
「帰ったのか……」
少なくともそんな感じがした。
だが、僕が勝手に寝て、雪海がほっといて帰ったのならまだ良かったが。
「雪海……」
あんな雪海の行動を見たら、心配しない方がおかしい。心配なのだが、もう夜は遅かった。
ちゃんと家に帰っているかな?
でも雪海が携帯を持っていないので(持っているかもしれないが、とにかく連絡はとれない)調べようもないし、家もわからない。
明日の学校で確かめるしかないだろう。
今はそうするしかない。
「はぁ……」
それにしても、雪海はいったいどうしてしまったのだろうか?
酒を飲んでから、雪海の態度が全くわからなくなった。
それに……好き、と言われた。
結局酔っていなかったみたいだし、もしかしたらあの言葉は本音、ということになるのか?
本当にそうだったとしたら、嬉しいよりも、驚きの方が強い。
あれだけ散々と鬱陶しがられて、いきなり手のひらを返したような態度だったから、僕も耳を疑ってしまう。
そりゃあ、僕は雪海のことが好きなのだから、向こうも好きであって欲しい。
そして、好きと言われた。
でも、何故だか素直に喜べなかった。
……もう一度はっきりさせよう。
明日、雪海にもう一度告白しよう。
そうしたら、このもやもやした変な感情は全て消えるはず。
やっぱり不安だけど、このままよりは絶対にいいと思った。
明日、学校で告白する。僕は決心した。
翌日、僕はいつもどおりに学校へ行った。
校門を通り、自分の教室へ行き、普段通りに学校で過ごす。
でも流石に雪海の姿を確認しにいこうとは思えなかった。
違うクラスだけど遠くもないので、確認しようとすればできるのだが、やっぱり怖いし、今はどう接したらいいのかがわからなかった。
でも結局は会ってしまうし、会わなければ話もできないし、昨日の決心も無意味なものとなる。
僕はただ怖くて雪海と会うのを逃げているだけかもしれない。
この心境は、初めて雪海に告白したときに似ていた。
雪海がどう考えているかがわからないからかもしれない。
1時間、また1時間と、早送りのように時間が過ぎていく。
あっという間に昼休みになってしまった。
今までの授業の内容が、驚くほど頭に入っておらず、他のことを考えることもほとんどできなかった。
今も心臓のドキドキが、うるさいほどに鳴っているのがわかる。
放課後まで、長いのか短いのかわからない時間が過ぎていった。
そして放課後になった。
今日は生徒会はない。本当は生徒会は毎日するはずなのだが、今日は特に用事もなく、行事もないので、休みにしている。
それが今、僕にとっては嬉しい。
生徒会がもしあったら、確実に気まずい雰囲気に、耐えられないだろう。
決心は、怖くてもすぐに行動する。ずるずるするよりは確実に良いはずだ。
僕は雪海を探しに、雪海のいる教室に行った。
「……あれ?」
だけど、雪海はいない。
先に帰ってしまったのか。元から来ていなかったのか。
何にせよ、僕はがっくりとうなだれた。
「おう、植野。どうした?」
そうこうしているうちに、その教室の友人が話しかけてきた。
「ん?ああ、ゆき……希咲がいないか見に来ただけだよ。でも、今日は休みだったのかな?」
「希咲か?そういやさっきまでいたけど、どこいったんだろうな」
はぁ、やっぱ先に帰ったのか……
僕のさっきまでの意気込みは何だったのだろう。
「でも鞄はあるから、まだどこかにいるんじゃないか?」
トクン、と心臓が跳ねた。
「どこにいるんだ?」
「さぁ、流石にわからない。何か用事でもあるのか?」
「え?ああ、生徒会関連でな」
ここは嘘をつく。まだ雪海が好きだということは、公に言ってないし。
「ここで待ってたらいいんじゃないか?鞄とりに戻ってくると思うし」
「うーん、急いでいるし……」
雪海とは、会ってすぐに告白したほうがいいと思う。確実に会話がこじれると思うし。
それよりも、友人や他人が見ている中での告白はいやだ。多分誰だっていやだと思う。
「僕は希咲を探しにいってくる」
「おーわかった。希咲が戻ってきたら、メールしとくわ」
「わかった。そのときは引き止めておいてくれよ?」
「いや……ちょっと勘弁してくれ」
恐ろしいのか、苦笑された。
はは、と僕も返して、教室を出た。
そしてすぐに、廊下を軽く走る。
雪海が行きそうな場所なんて、わからない。僕は通った場所をしらみつぶしに探す。
だがやはりというか、この広い学校の中で見つけるのは大変だった。
「雪海……どこだ?」
はぁ、はぁと息が上がってくる。
放課後だから、そんなに人はいないのだが、見つからない。
かれこれ20分は走っただろうか?
僕はアイツに、希咲は帰ってきたか?とメールを送る。
すぐに返ってきたが、『いや、来ていない』と書いてあるだけだった。
この際『帰っていいか?』という文は無視する。
本当にどこにいるんだよ……
もう学校は大分調べ尽くしたはずなのに、全然見つからない。
もしかしたら、何かあったのか?
それとも、生徒会があると勘違いしているのか?うん、それはないな。
走り疲れたので、廊下の壁にもたれかかって座る。
まだ暑くはないが、けっこう走ったので汗をかいていた。
用事が終わって、帰ろうとしている人たちが僕を少し見て帰ったり、部活のかけ声や、色々な音が聞こえる。
何故か、自分が無気力な気持ちになった。
「はぁぁぁ……」
大きくため息をついて、僕はうつむいて肩を落とす。もう疲れて、ため息しか出なくなっていた。
「おい、春秋」
突然声をかけられる。
ゆっくりと頭を上げると、僕のクラスの友達が僕を見ていた。
「どうした?」
面倒くさい声で返した。今は疲れてそんな声色しか出せない。
「教室閉めるから、お前の鞄を持ってきたんだ。感謝しろよ?」
「ああ、ありがとう」
「感謝の気持ちが感じられないのだが。……まぁいいや、じゃあな、俺は帰るわ」
一方的に喋って、帰っていった。
僕は鞄を受け取り、中に入っていたお茶を飲もうと鞄を開けた。
そして、鞄の中で一番目立つように紙が入っていた。
『屋上にきて』
ただそう書いているだけで僕の心臓が跳ねた。今度はより、強く。
お茶を飲もうとするのを忘れ、僕は屋上へと向かった。
屋上は、本来立ち入り禁止だ。だから僕は調べなかった。
でも、それが盲点だったみたいだ。そして、雪海が僕に会いに来るかもしれない、という可能性もすっかり考えていなかった。
僕は屋上まで行き、扉を開けた。鍵は掛かっていなく、素直に開いた。
居た。ずっと探していた雪海が、ようやく見つかった。
「雪海……」
壁に浅くもたれかかり、ゆったりとした体勢で寝ているようだった。
どうやら春の陽気に当てられて、寝てしまったようだ。
雪海を起こそうとして、肩に触った時―――――
「うわっ!」
雪海がそのまま重力に身を任せるように横たわってしまった。
そして、捲れ上がったスカートの中身が……白―――――
って、ダメだダメだ!
ブンブンと首を振り、自分に言い聞かせるように心の中で叫んだ。
「ん……」
雪海は呻き声こそ上げたものの、起きた様子は見あたらなかった。
とにかく、目に悪いので、捲り上がったスカートを直すために、雪海のスカートを摘んだ瞬間――――――
雪海が目を覚ました。神が降りたとしか思えないタイミングで。
「……………………」
「……………………」
殺される。告白云々より、まず殺される!確実に!
言い訳の仕様がない。
だって、雪海からすれば、自分のスカートが捲られている最中としか解釈できないのだから。慌てスカートを放すも、後の祭りだ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………?」
おかしい、何もこない。
「…………ねぇ」
「は、はい!」
何も感情がこもっていない声色が、逆に恐怖を誘って、思わず敬語になってしまう。
「こういう時、叫ばれるのと無条件で殴られるの、どっちがいい?」
「え?―――――――!!??」
次の瞬間、僕は激痛とともに、言葉を発することも出来ず、仰向けで倒れていた。
「変態」
「違っ!?」
僕は、何か言葉を出そうとして、また止まった。
雪海の顔が、目の前に会ったからだ。
四つん這いになって、僕の顔を覗き込んでいるようだった。
髪が頬をくすぐる。何やら甘い感じの香りがした。
「ゆ、雪海?」
瞳でじっと見つめられる。
いつものやる気のない瞳ではなく、どこか恥ずかしさが混ざっている気がした。
「春秋」
「は、はい」
またもや敬語になってしまった。
「遅い」
「ご、ごめん」
「どれだけ待ったと思っているんだ」
「ほんとごめん!」
精一杯に謝罪する。
「まぁ、走り回る春秋の姿は見えてたけど」
「え?」
「ずっと見てて、面白かった」
「ドS!?」
…………雪海が反応してくれない。
地味にショックだ。
「ねぇ」
「何?」
「ここに呼んだ理由、わかる?」
「え、と……」
しばらく悩んでしまった。
「バカ」
「わっ!」
四つん這いになっていた雪海が、のしかかるように唐突に体重を預けてきた!
「ここまでして、わからないの?」
「え?じゃあ……」
「…………バカ」
普段では絶対に見せない、恥ずかしそうな表情が、僕の目の前にあった。
か、可愛えぇぇぇ!!
普段とは違うギャップのあまりの可愛さに、思わず叫びたくなってしまう。
「春秋」
恥ずかしさがこもった口調で語りかけてくる。
「ゆ、雪海……」
僕も恥ずかしくて、思わず口ごもってしまう。
でも、ここで恥ずかしさなんて克服しなきゃ。雪海がここまでしてくれたんだ。
僕だって、男だ。
「雪海、聞いてくれ」
雪海が頷く。
「僕は、雪海が……好きだ!」
もう何十回目の告白だろうか?
「ぼくも…………す、すき」
そして、その何十回目にして、ようやく実った。
内心舞い上がって、最高に嬉しいのだが、何故だか息苦しさだけが僕を襲った。
まだ心臓がドキドキしていて、満足に息が出来ない。
これは、雪海が好きだってわかって、告白するまでの気持ちに似ていた。
「あ、あのさ……キ、キスしていい?」
そう言うと、雪海はゆっくりと頷いた。
元々近かった顔同士が、更に狭まっていく。
そして、僕達はキスをした。
そのキスには、昨日のような感覚ではなく、充足感があった。
唇を放し、お互い恥ずかしそうに見つめ合う。
「春秋……」
「な、何?」
「あ、当たってる……」
ボソッと言った。
「へ?」
キスやら、雪海の柔らかい体の感触やら、アレやらコレやらで、いつの間にかお元気になられていたらしい。
「…………変態」
「ええっ!なんか理不尽じゃない!?そりゃ、女性に体を押しつけられてキスまでしてなんだか妖しい感じの雰囲気になったら、仕方ないじゃないか。僕も男なんだから……ブツブツ……」
「……何?そういうことするの、期待してるの?」
「え、いや、そこまでじゃ、でも……」
「はっきり言え」
恐ろしいどす黒さをまとった声に
「してます、期待しちゃってます!!……あ」
素直に言葉に出してしまった。
「ご、ごめん!雪海。今のは聞かなかったことにしてくれ」
「い、いいよ」
「…………はい?」
「春秋……さっきから同じリアクションばっかで飽きた」
「そんなこと言われても……って、いいの!?」
「うるさい……二度と言わせるな」
プイッとそっぽを向く。可愛らしい仕草と、OKの返事に、僕はまた胸が高鳴りだす。
「でも、まだ僕達は付き合って間もないし……」
「うじうじ言うのは男としてどうかと思う」
「うっ!……わかった。でも、ここじゃあダメだと思う」
「じゃあ、生徒会室で」
生徒会室なら人も来ないし、だいたい来る人もいないな。
「じゃ、生徒会室に行こう」
「うん」
生徒会室に来てしまった。
春秋は、さっきから落ち着きがないというか、たどたどしくて見ていられない。
ヘタレだ。男のくせに……
ぼくだって、は、恥ずかしいのだから、こういうときにいつものうっとうしい春秋になってくれればいいのに。
とりあえず扉に鍵を掛ける。
そういえば、なんで生徒会室にしたのだろう?
別に春秋の家でも良かったんじゃないか?
ぼくはふと思ってしまった。
……まぁ、今さらいいか。
「ゆ、雪海……どうすればいい?」
それは禁句なんじゃないか?少なくとも、男らしくはない。
「春秋……ヘタレ」
「ぐっ!」
ぼくが放った言葉は、グサッと春秋に刺さったらしい。
「………………」
春秋が落ち込んだり、首を振ったり、やる気を出したと思えば考えていたり……1人で百面相をしていた。面白い。
だけど、本当に春秋はヘタレだな。
ヘタレオブザイヤーで受賞でもしそうだ。
近年よく見る、ヘタレな主人公でもそこまでヘタレではなかろうに。
「…………よしっ!」
何か決意したようだ。そしてぼくの方を向く。
「じゃあ雪海、いいね?」
それも禁句だろ。と言いたいが、話が進まないのでやめとく。
と言うわけで、ぼくは頷いた。
「いくよ……」
春秋がぼくの肩に手を置く。そして顔が近づいてくる。
ぼくは素直にそれに従い、キスをする。
キスの途中に体を引き寄せられて、背中に手を回し、抱きしめられる。
とくん……とくん……
心音がやけにうるさい。
なんだか体から力が抜けていき、春秋にもたれかかるようになってしまう。
キスで息苦しくなっているから、とは違う感じの苦しさがぼくを襲う。
キスが終わり、春秋がぼくの体をぎこちなく、というかどこを触ればいいか迷っているようだ。
でもぼくは何も言わない。何もしない。
もう春秋に全てをまかせる。
別に男に支配されたい、任せたい、とかそういうのじゃない……と思う。
春秋が腰を触ってきた。そして驚いている。
ああもう、じれったい。
と、春秋はぼくのブレザーのボタンを外しにかかってきた。
なるほど、人に服を脱がされるなんて、子供のとき以来だ。
ブレザーが脱がされ、次はカッターシャツに手をかけようとする。
―――――ッ!
「ちょっと、まって」
「え?あ、うん」
何、今の?心臓がドクンと跳ねた。
一瞬、息が出来なくなった。
これは……恥ずかしいのか?
それとも、怖い?
「もういい。つ、続いて」
「う、うん」
春秋が再度カッターシャツに手をかける。
スカートの内側に入っていたシャツが出され、下からボタンが1つ1つ、外されていく。
また息苦しくなってきた。恥ずかしい……
「まって」
もう一度同じ言葉に、また春秋は不安そうに手をとめる。
「ここで全部は、いや……」
「あ、ごめん……」
流石に誰も来ないとはいえ、学校で丸裸にされるのはいやだ。
でも体が熱い。冬の風呂上がりのときのように、体が熱を発している。
内側からくるじわっとした熱に、ぼくは耐えられなくなってきた。
自然と自分からボタンに手を掛ける。
1番上から2番、3番と……
結局、ボタンは半分くらい外してしまった。
春秋がごくり……と喉を動かす。
春秋の視線は、そのはだけられた胸元へ集中しているのが目にわかる。
ふっ……見るからに童貞くらい仕草を。そういうぼくも処女だけど。
それにしても、そうずっと胸元を見つめられると、こう、体の奥からくるというか、やっぱり恥ずかしい。
「春秋、そんなに見るな……」
口に出して言うが、それには全くと言っていいほど、力がこもっていなかった。
「あ、ご、ごめん!」
それでも今の春秋には充分だったようで、ぼくの胸元から目を逸らす。
「……………………」
「……………………」
そして春秋が止まった。
…………これはもう普通なら萎えているレベルに、沈黙。
ああ、段々腹が立ってきた。
なんなんだ。こういうときは男がリードしなければいけないはずだ。
ぼくも一応女なのだから、春秋にリードされた――――――
いや、男のメンツを保つためにリードさせてあげているのだから、男らしくなれという感じだ。
「雪海、じゃあ、いい、かな?」
「うん。いい。きて」
ぼくは頷く。
春秋の手がぼくの太ももを触れた。
ようやくというか、やっとというか、春秋が初めて行為らしい行為をしてきた。
「ん……」
くすぐったい。背筋がぞわぞわする。
手が太ももを撫でるように滑っていく。
痴漢だ。なんて痴漢紛いなことをする。
それでも、背筋のぞわぞわはとまらない。
更に、もっと体が熱くなってきた。
風呂上がりだったのが、熱湯に浸かった後のようだ。
そしてスカートの中へ。
春秋の手は、ぼくの太ももの付け根あたりまで入っていく。
「えっ?」
「あ……ッ!?」
お互いが同時に驚いた。
そしてぼくはなんてバカなんだと思ってしまった。
そう、股の間……具体的には、今から春秋のを受け入れてしまうだろう場所から、溢れんばかりに愛液がショーツにシミを作っていたからだ。
ぼくは硬直してしまった。本当に、春秋に触れられるさっきのさっきまで、気づかなかった。
つまりぼくが恥ずかしくて体が熱くなると思っていたが、それは興奮して体が熱くなっていた、と言うことか。
最悪だ。ぼくはこんなにも変態だったのか。
「――きゃ!?」
春秋がショーツのシミ部分を触ってきた。
思わず、らしくもない声を出してしまった。
後ずさりして、机に腰掛けてしまう。
「君でも、そんな声するんだ……」
何故か春秋は感心していた。そして机に座っているぼくの足を開かせる。
「あ、たり前だ。ん……バカ……!」
春秋が指でつつく。そのたびに、ぼくは反応してしまう。
なんで、こんな時に強気になる!いや、ある意味ベタだが。
やられている方としては、たまったものじゃない。
「うわ、凄い……」
春秋は何か感動でもしている様子だ。
「ぼくで、あっ……あそぶな……!」
「ごめんごめん。……脱がすよ?」
「えっ?きゃ、ちょ、ちょっと」
ぼくの意見なんて聞かずに、ショーツを下ろされた。
ショーツ内で籠もっていた、熱気と湿度が、一気に解放され、どこか清々しい気持ちは……しなかった。
もうぼくの頭の中は、恥ずかしさと興奮と恐怖で埋め尽くされていたからだ。
「凄い。綺麗だ雪海」
何か春秋が褒めているみたいだ。
だけど、ぼくの耳にはそれは入ってこなかった。
「いや……恥ずかしい……」
ただただ、パニック状態に陥っていた。
「もう、限界だ」
「な、なに?」
机の上なのに押し倒された。春秋がぼくの上にいる。
そして股の間に、何か熱いモノが当たった。
え?これって――――――
「ッ!あっ!」
「うわ、きつ!でも暖かい……」
体の中に入ってくる!?やっぱりこれって、春秋のペニスなのか!?
ぼく達は今、セックスをしているのか?
いや、確かに始めはするんだと思っていたけど。
怖い。ぼくは恐怖を感じていた。
噂話では、セックスはお互いが気持ち良く、また、満たされるような気分になる、とか言っていた。
嘘だ。こんなの……レイプと変わらないじゃないか。
「あっ!い、痛っ!」
恐らく、処女膜に当たり、押されているのだろう。神経を走るような痛みが体に駆け巡った。
恐怖と痛みが混ざり合い、もうわけが分からない。
「や、んーー!痛い!あっ――――――」
声が出なくなるほどの痛みとともに、ペニスが更に体の奥に侵入してきた。
「あ、ご、ごめん、雪海!僕、自分のことしか考えてなかった」
と、ここでようやく春秋がぼくの様子に気づいたようだった。
「はぁ、はぁ……春秋なんて……死んでしまえ……」
ぼくは涙を浮かんでいた。
「ごめん!本当にごめん!」
春秋が謝ってくる。
卑怯だ。そんなに、心の底から申し訳なく謝られると、何も言えないじゃないか。
「――――許さない」
「えっ?」
「優しくしないと……許さない」
「……ああ!わかった」
春秋は、とびきりの笑顔で言った。
それは、いつもキモいとか言っていた笑顔。なのにぼくは、安心してしまった。
「いくよっ」
体の中の異物が動く。
「っ!」
また神経適な痛みが走った。
「大丈夫?痛い?」
「だ、大丈夫」
あまり大丈夫ではなかった。破瓜の痛みは引いたが、破かれた処女膜がペニスとこすれて、痛い。
だけど……痛さではない何かが、ぼくの体を走っている。
「あっ……ん……」
そしてそれは、段々痛みより大きくなってくる。
そうだ――――気持ちいいんだ。
ぼくは自分の足を春秋の腰に回し、少しでも、この気持ちよさに浸れるようにする。
学校なのに。誰かに見つかってしまうかもしれないのに。見つかったらただ事ではないことなのに。
ぼくはただ興奮し、悦楽に溺れていった。
「あんっ、ふぁっ……はるあき……はるあきぃ……」
頭の中が快楽で塗りつぶされていく。
思考、とか理性、とか倫理とか、何もかもが塗りつぶされていく。
「雪海……気持ちいいよ」
「ぼくも……だ」
腰が振られるたび、ペニスが動き、それがぼくに快楽を与える。
お互い息は荒くなり、春なのに汗だくになっていた。
春秋の汗が時たまぼくにかかるくらいに。
「はぁ!ああっ!あたまが、チカチカ、する……!」
靄がかかる、ではなく閃光のような光が、意識を削ぎ取っていくかのようだった。
「うわ!雪海、そんなに締め付けないで!」
知るか。ぼくがやっているんじゃない。
ぼくはぼくで手一杯なんだ。
「はぁ、はぁぁ!な、何かクる!」
言葉では言い表せない、何かがきようとしていた。
「雪海……!僕もう……出る!足ほどいて!ああぅっ……!」
「あ!ああっ!なに!?」
体の中のペニスから、何か熱いものが飛び出してきた!?
まさか――――精液!?
「いやぁ!何これ!?気持ちいい!」
精液が奥に――子宮に入っていく。
疼きが体を巡り、甘い陶酔へと変えていった。
これは、ニュースで見た、麻薬を使用するとどのような状態になれるか、という説明が一番近いような気がした。
「あぁ、イクぅっっ――――!!」
そしてぼくは、その膨大な快楽に、意識を失った。
「ごめん」
辺りが暗くなった道の中で僕は謝った。
「もういい。さっきからうっとうしいから」
もう何回謝ったんだろう。
多分告白した回数は超えたんじゃないかな?
謝る理由は、1つは中に出してしまったこと。もう1つは雪海を泣かせてしまったことだ。
中出しはまぁ、雪海ががっちり足でロックしていたから逃げられなかった。
後者は、完全に僕が悪い。
自分しか見ておらず。雪海の状態を見なかった。男として、最低だ。
「ぼくがいいって言っているんだから、もう終わりでいいだろうが」
「そうだね……わかった」
僕はとりあえず他の事を考えることにした。
…………それにしても、雪海があんなに乱れるなんてな。
普段では絶対に出さないような声(大きさ適な意味でも)に表情。
こう、何というか、凄く萌える――――
「痛!!」
そんなことを考えていたら、雪海に何かされた。とりあえず鈍痛が走ったから、殴られたのだろう。
「変態……最低……」
「ごめん」
「……ぼくだって、好きであんな声出してたんじゃないのに……」
最後に雪海が何か呟いたような気がした。
しばらくして、僕の家の前につく。
「春秋」
「なんだい?」
「子供、できてるかな?」
「ぶっ!!げほっ!ごほっ!」
咽せてしまった。
呼吸を整えて、僕は即座に聞き返した。
「えっ?子供?」
そうか、そりゃあ、中に出したわけで、子供が出来ている可能性はある。
「責任、とってくれる?」
「ああ」
僕は直ぐに答えた。覚悟は出来ているつもりだ。
「そう……」
雪海は、一旦うつむいた。
「雪海?」
僕は怪訝に思い、思わず雪海に問いかけた。
「春秋」
そして雪海は顔を上げた。
誰も見たことのない、極上の笑顔とともに。
「大好き」
この日、僕と雪海は恋仲となった。
参考情報
初版は2010/09/13(月) 00:26:22~2010/09/13(月) 00:33:59で13レスで投稿。
第二版の前編(初版投稿分・中線まで)は2010/11/01(月) 00:03:15~2010/11/01(月) 00:15:06で13レスで投稿。
第二版の後編(中線から)は2010/11/01(月) 00:15:39~2010/11/01(月) 00:29:29で15レスで投稿。
ユーリさんの生徒会の一存のエロ小説を創作してみるスレで9作品目。
- 最終更新:2011-10-30 03:31:22