一星龍さんの小説25-1

本文

ずっと、一人だった。
その理由が分からなかった。
ずっと一人ぼっちで、寂しくて、孤独だった。私は何も悪くないのに、そうやってずっと一人でいた。
だから、私はその手を掴んだ。
私に差し伸ばしてくれた…………その手を。


たった今、幼馴染の美少女に脅されているといったら皆さんは信じるでしょうか?
残念ながら、真実とか現実は得てして、望まない方向へと進むわけで……。
「ねえ、ケン。五千円でいいから貸してくれない? お金。」
このある種どの悪魔よりも悪魔な幼馴染は元々財布が軽い俺からさらに金を盗ろうとしている。
「……拒否権は?」
「うん、却下」
「……ハートマークつけるほど?」
「そりゃもう、いつだって私は金欠ですから。」
この前後輩の女の子たちにパフェをおごっている姿を見かけたのは気のせいか幻だったのだろうか。もしくはあれも俺から借りた金なんだろうか。
「いや、だってさぁ、ケン。聞いてよ。まあ、このケンから借りて尚且つ返す気もないお金で買ったお茶でも、飲みながら。」
「うん、とりあえず、いろいろとお前は猛省すべきだと思うんだ。俺は。」
「過去は振り返らない主義なんだ。それに私が反省する必要とかないと思うし。」
「だったらせめて、未来に見通しを持ってください!!」
「ふぅ……分かった、分かった。あやまりゃいいんでしょ。ごめんね、ケン君☆ぺこりんこ♡」
「黙れ!」
「こんな可愛い幼馴染が謝ってるんだから即決で許すのが男でしょーが。」
「お前、ホント何様だあああああああああっ!!!」
「飛鳥様だ!」
「んな、凶○様だ! みたいに言うな!!」
「……超妻賢母になれると思うんだ。私。」
「なれるか!! むしろ玉砕賢母だ!!」
「お、今の巧い! 90点!」
「別に点数なんざ求めてないわ!!」
ダメだ、こいつ。ボケに際限がねえ……。いつもの事だけど。そしてそれに慣れている俺が嫌だ。
「という訳で、はい、五千円。」
「どういうわけだ! 話し混ぜ返さないでくれる!? って言うかお前のその守銭奴っぷりは何!?」
「じゃあ、五千円くれなくていいからその分暇つぶしに付き合えー。」
「くれなくて!? くれなくていいからといったかお前!!? 貸す話だったよな!? っていうかいい加減俺から借りた金返せよ!!」
「細かい事をネチネチと……。そういう男は嫌われちゃうぞ。」
「大まか過ぎる女の子も嫌われると思いますがねぇっ!!」
「ふぅ…………たーのしっ♪」
「でしょうね!!」
「ケンは楽しくないの?」
「これで楽しいと思える方はちょっと頭逝ってるんじゃないでしょうかねぇっ!!?」
「え、まんまそれあんたのことじゃん。」
「帰れえぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇええぇぇえぇぇ!!!!」
いつものオチがついた。

うん、ホントいつものオチ。いつか変わるんだろうか……こいつの性格。うん、マジで、リアルに。あと俺のこいつに対するツッコミ。



「うう、疲れた……。」
先日のツッコミ地獄と生徒会の活動のせいで筋肉痛に頭痛がコラボミックスしている。
「ん、どうした鍵。すっげえ、疲れているみたいだけど……。」
隣の席の深夏が心配そうに声をかけてくれる。こいつもボケ度がかなり強いけど、まぁ飛鳥よりかはましだ。
「うん、まあ……先日の激務がたたってな。」
「え? ま、まあ確かに生徒会役員でもないのに、なんかお前に雑務一任しているのは申し訳ないけどさ。」
「本当な。」
一度飛鳥が雑務つまんないからって俺を生徒会室に連れ出したのがきっかけで、今や俺は時々会長に呼び出されては溜まった雑務をしている。
確かに、昨日は力仕事が主だったがそれとは関係なく昨日、飛鳥との応対の方が疲れた。精神的にくるものが結構ある。
しかもあれでオチをつけて尚且つ俺の不機嫌なテンションをさりげなく導いて(意味分からん方向に)さりげなくプラスマイナスゼロに(攻撃と回復を交互にするという陰湿ないじめだが)するのだから俺も強くいえない。
……なんか強く言ってもいい気がしてきたぞ……!
「…………この状況で凄く言いにくいんだけどさ……。」
「……言わないで。」
「いや、そういうわけにもいかねえんだけど……。」
「……聞きたくない。」
「うん、じゃあ言うだけ言うけどさ…………今日も来てほしいって。会長さん。」
「………………もう、いや……。」
「ま、お前の気持ちは分かるけどさ。」
「分かるなら、そんな事言うのは止めて下さいません?」
「まあ、来る気になったら……って来ないか?」
「多分な……期待せずに待ってて。」
とはいえ、行くんだろうなぁ……。放課後強引に飛鳥につれられて。
全く、飛鳥もこっちの迷惑とか少しは考えていただきたい。あっちはとにかく楽しそうだとか、面白そうとかを原動力にしているからいいだろうけど、それにつき合わされる俺(時々林檎)の事を考えてほしいよ。それに俺と林檎などの特定の仲良い奴以外には猫かぶって接しているから、余計にこっちが嫌な特別扱いされてて嫌だし。
まぁ、特別扱いというほどでもないか。単純に一緒にいる時間が長いから馬が合うだけだろうし。
(はぁ……いいや。開き直るか。)
いっそそうなるなら、無駄に足掻くのはやめておこう。それなら来るべき試練のために体力回復に努めておこう。うん、そうしよう。
欠伸を一つして、目を閉じる。
意外と……と言うか普通だけど疲れていたようで簡単に寝れた。



放課後。
二度目の深夏の催促が来て、仕方ないと思いつつ生徒会室へと赴く。
まあ、昨日、あらかたの力仕事を片付けたから、今日は事務仕事なんだろうけど、それでもやっぱり生徒会に持ち込まれる事なんて面倒なものばかりだからできれば遠慮したいのだが。
そう思いつつ、廊下を歩く。
すると、廊下の先の方で何やら話し声が聞こえる。
目を凝らしてよく見ると、そこに飛鳥と、見知らぬ男子生徒がいた。
飛鳥もこっちに気付いたようで、すぐにこっちに近づいてきた。
「あっ! ケン、いいところに……。ちょっと、話合わせて。」
「は? いや、話が見えないんだけど…………。」
飛鳥は俺のその言葉を無視して後から追ってきた男子生徒に向き合う。
「えっと…………窪野君。あのね、私、ケンと付き合ってるから――。」
「ハイッ!!?」
(いいから、話し合わせてっていってるでしょ!!)
(いや、いくらなんでも話が突飛過ぎなんだが!?)
(普通に相槌打っていればいいから!!)
「え、えっと……付き合ってるんでしょうか。本当に?」
『ええ、はい。』
「え? あ、あの……どっち?」
『いや、だから付き合ってますよ。』
流石に窪野くんとやらも俺等がアイコンタクト中はいぶかしんでいたが、急に息が合ったのを見て微妙に混乱にしているようだ。
「そ、その割にはなんか二人共なんか距離が恋人としては距離が離れすぎな気が…………。」
「い~えっ、ラブラブですよ。」

今度は飛鳥とハモらなかった。

(え、飛鳥?)
「え、あ、うん。そうね。うん、私と鍵はラブラブよ♪」
一瞬吐きそうなくらいの甘ったるい空気が飛鳥から漏れたが、何とか堪えた。
「うん。じゃ、そういうわけだからデートのお誘いには乗れないから。ごめんね。」
そう言って、飛鳥は俺の手を引っ張ったまま廊下を駆け抜けた。



「さて、弁明を聞こうか。飛鳥。」
「鍵を陥れようと思ったんですが……方法がまずかったんでしょうかねぇ……あんま効果はないのかと思われまする。」
「弁明する気ない上に、動機が何だか可笑し過ぎだろ。そして、その口調は何だ。」
「おおっ、たった52文字とはいえその中の全てのボケに突っ込むなんて……流石ケンね!!」
「お褒めに預かり感謝感激です。で、本当にどうしてああなったのかいい加減教えろ。」
また、何かしらの冗談で飛鳥は返そうとしていたようだが、流石に俺の表情を読み取ったのか、少しだけ真面目な顔つきに鳴る。
「うん……まぁ……その、下級生の子にちょっと、告白されちゃってさ……。」
「え、おまえが? ないない、お前が告白とか…………マジ、ないわー。」
「ええいっ、そういうのが分かってたから言うのやだったのよ!!」
「飛鳥だって俺の話の間に余計な茶々入れるだろうが。それのお返しだ。」
「……まぁ、いいや。ま、相手も告白が成功しないのは予想してたみたいでそれは食い下がってくれたんだけど……食い下がった結果デートしようって話になっちゃってねぇ。」
「なんじゃそりゃ。」
「それで、まあ、あの子押しが強いのか控えめなのかよく分からないけど、ずるずる通されて危なかったって事よ。はい、回想しゅーりょー。」
「ふ~ん。で、俺はお前のために偽装恋人になって余計な被害をこうむったと。」
「いいじゃん。元々私たちそれなりにいつも一緒にいるんだからさ。そんな不可解に思ったりはしないと思うけど。」
「それ以前の問題だろ。ったく、何が悲しゅうてお前と嘘でも恋人演じなきゃなんねぇんだよ。っていうか、飛鳥も今更だけど俺と恋人なんてあの状況じゃ仕方ないけど、冷静になると飛鳥だって俺と恋人なんて嫌だろ?」
「……………………。」
「え? 何でそこで黙秘?」
「んにゃ……ケン以外に男の友達なんていないし……判断基準がないから、嫌とかいうのがよく分かんないしねぇ。」
「おいおい、それはそれでどうなのよ。」
「まあ、どうでもいいや。別に男の友達なんてケンだけで十分だし。ま、今日はありがとね。あのままだと流石の飛鳥さんも押し切られちゃったかもだし。」
「お前に限ってそれはない。………………………………………………あ、そういや今日深夏に、生徒会来るようにいわれてたわ。」
「あ~あ、やっちゃったね。」
「お前のせいだけどね。」
「はいはい、分かってるわよ。ちゃんと皆には訳言っとくから。」
「うん、そんな胸張んなくても、普通のことだからな。」


ケンと恋人ねぇ……。
まあ、確かになんやかんやで、こいつとは10年以上縁があるわけだし、そういうのを考えた事が一度もないわけじゃない。
でもなぁ……恋人って言われてもまるで想像もつかない。相手が誰だとしても。
友達の女の子は皆誰々が好きだとか、何々部の先輩はカッコイイだとかいうけど私は特にどうとも思わない。
空気読んでそういうことを言わないではいるけど、皆そんなに彼氏を作りたいのかね?
ケンはケンで彼女とか作りたいんかな。今日告ってきた子も少なくとも私が好きだから告ったんだろうけど、じゃあ、ケンは?
一度気まぐれで生徒会に連れてったきり、なんかあいつは結構生徒会通うようになったし、そのせいでみんなそれなりにケンの事好きみたいだし。
これはあれか? 好きなおもちゃが他の人に取られて悔しいってことか?
それとも意外とガチで私もケンの事好きだったりして……。
ま、それはないかな。絶対に。


数日後。
たった今、幼馴染の美少女に脅されているといったら皆さんは信じるでしょうか?
今日も今日とて俺は飛鳥に脅しを受けている。
ただ、今回だけは事情が少し違った。
「え~っと……ケン……ちょっと頼みたい事があるんだけど……。」
「……………………金なら貸さないぞ?」
「わたしを守銭奴かなんかと勘違いしてんじゃないの!?」
「数日前にあれほど五千円に執着してたのは誰でしたっけねぇ!!?」
「あんたよ!!」
「え!? 俺だったの!!?」
「って、そんな事はどうでもいいのよ。真面目に頼み事あるの。」
「なら、いいけどさ……。で、なんだよ、その頼み事って。」
「うん……まあ、その……あの私と………………て欲しいの……。」
「え? ……なんつった?」
「だからっ!! 私と……デートして欲しいの…………………………?」
「何で、疑問系? …………いや、ツッコむとこ違うわっ!!」
「うん、一人でボケてもいいんだけどさ……。」
「っていうかなんで!!? 何でデート!!?」
「しっ!! 大声出しすぎ!」
「あっ、わ、悪い……。」
幸い、クラスの連中は俺たちの話を聞いてはいないかった。
「それで、なんでお前とデートなんざしなきゃいけないんだよ?」
「うっ……まあ、それにはそれなりの訳があって……。」
「なきゃ困るわ。」
「まぁ、その……この前告白されたの覚えてる?」
「あの時のか? そりゃあ覚えてるけどさ。」
「うん、それであの時の子がね。ちょっとストーカーまがいの行為し始めてさ。それで「いい加減にしろー」ってちょっと詰め寄ったら、私とケンが付き合ってるの本気にしててさ、それで私があまりにもケンと付き合ってるふうには見えないと言われて……。」
「それで、証拠とばかりにデートしてやるって言ったわけね。」
「そういうこと。」
俺は飛鳥に向かって精一杯の笑顔でこういった。
「最初から最後までお前が悪い♡」
「うるさい!!」
「いや、だってもろお前の責任だろ。これ。」
「いや、そーだけど。分かってるけど……。でも、ストーカーなんて、気持ちわるいぢゃん?」
「お前がそんなまともな感性を持っていたとは驚きだ。」
「どーいう意味だーっ!」
「ちょっ……おまっ……首絞めながら、振るなっ……ごふっ!」
ただ、力の限り、飛鳥は俺の首をゆする……ってマジでこれヤヴぁイっ……!!
「ま、マジで、死ぬっ……!! ちょっ、やめっ!!」
「ふぅ……全く、ケンは女心が理解できない奴だからしょうがないのよ。」
「女心が人並みにあるなら首を絞めたままゆする事はないと思いますけどねぇっ!!!」
「じゃあ、いいの!? 私があんな不細工な男の毒牙にかけられても!?」
「むしろかけそうだよな。」
「だから、茶化さないでよっ!!」
なんて事だ、今日はとんでもないラッキーデーだ。俺が飛鳥相手に茶化す事ができるなんて。
とはいえ、飛鳥が本当に困っているのも分かって入る。だから別に助けて欲しいなら助けなくはないんだけど……その方法がねえ……デートなんて言われても、こいつと今更一緒に出かけたってなんか思うところはあるのか。
「…………ふぅ。」
「ため息つくな。」
「つきたくもなるだろ、こんな状況じゃ。」
……まてよ。デートということはただ二人で出かけるだけではダメなはずだ。映画館なり遊園地なりが定番だろう。だが、一番定番なのは……ショッピングな筈だ。そしてそこから、計算される事、さらには未来予測まですると……。
「お前、もしやたかる気じゃないだろうな?」
「……………………。」
「目を逸らすなっ!!」
「何で、ケンと目を合わせて会話しなきゃいけないのよ。全く、羞恥心が分からないやつはこれだから……。」
「そんな事はどうでもいい、お前がたかる気が少しでもあるなら――。」
「ああ、もう、ないっての!! 何でこういうときにそういう意にそぐわないこと言うのよ!!」
「…………はぁ。」
飛鳥の子の言い方からして、久しぶりに本気 なんだろうな。確かに、普通ならスートカー行為されちゃあいやだし。
「…………ったく、今回だけだぞ……。」
「…………はひ? え、いいの?」
「いいの? って期待してなかったんかい!!!」
「え、えーと、若干。」
というわけで、

俺は飛鳥とデートする事になった。



その週の日曜日。
成り行きか、何かは知らないが、俺は今日飛鳥とデートするらしい日になってしまった。
いったいどうすればこういう成り行きになるんだよ、とツッコみたい人はたくさんいるだろうが、如何せんこっちだってよく分からないんだ。
「…………ふぅ。」
何だ、この胸の鼓動は。恐怖か? 恐怖なのか? 飛鳥と一緒に(二人きりで)出かけるなんてもう2,3年ぶりだ。そのときのあの記憶が俺に恐怖をもたらしてるのか?
さて、そんなこんなで9時に待ち合わせ。だから普通の礼儀として10分前から待っているのだが、まぁ、飛鳥は基本時間通りに来るものの10分前から待つような人間らしい礼儀が……あるような、ないような……。

1時間と15分後。

「ゴメ~ン、ケン♡ 待ったぁ~☆」
「とりあえず、いろいろ言いたいことはあるが、死ね!!」
「え? そんな太字にするくらいに!?」
「読者の皆様は分からないんだからそういうことは自重しような。んで、死ね!!」
「ひどっ!? 二回も死ねって言った!!」
「三回目、言ってやろうか?」
「いや、いいです。」
二人で表向きを気にした表情だけの感情のない笑みを浮かべる。
「で、なんで、こんなに遅れた? よもや、さっき来たばかりだよ、みたいなことを言って欲しいからだとかいうのか?」
「うん。」
「よし、じゃあ俺はもう今日帰るから。」
「待つヨロシ!!!」
「何で片言?」
「これにはちゃんと理由があるネ。」
「どうせ、くだらないと思うが……どうぞ。」
「ストーカーの子をまいてたのよ。」
「そいつに見せ付けるデートじゃなかったか。今日のは。」
「…………あ。」
「…………今の『あ』は一体どういうあでしょうか?」
「もうっ、ケンなら分かってるくせにぃ~」
「うん、帰るわ。」
「まってぇ~後生だから待ってぇ~」
飛鳥が泣いて俺にまとわりつく。
「でもね、ほんとにね、あの子は凄かったのよ。」
「あの子って、ストーカー疑惑の下級生の窪野君?」
「そそ、奴は私ですら気付かぬほどに気配を小さくして、尚且つ私の行動予測を的確にしつつ、ウィークポイントを執拗についてきたわ……。」
「もう、そんなだったら、むしろ普通に接してやれよ。」
「まさに窪野君は鈴木○郎がバイオ○ザードでクラ○ザーを使っている時よりも機敏で強く、スパイだったわ。」
「そんな一部のマニアじゃないと分からないネタ提示するなよ……。」
「というわけで、遅れてきたことには珍しく素直に謝ってあげるから。」
「珍しくって自分で言う事じゃないと思うんだ。」
「あ~はいはい屁理屈はいいから。」
「お前の方が圧倒的に屁理屈だと思うが。」
そう言いかけたときに、飛鳥が俺の手を握ってくる。
「…………。」
「ん~ふふふ。」
「な、なんだよ、その笑いは……。」
「んいやぁ……この飛鳥さんの魅力に惚れたかのようにケンの顔が真っ赤だからさぁ……。」
「なっ!? ん、んなわけあるかっ!!」
「だったらどうしてそんな顔赤いのかなぁ~、くひひっ」
そんな事はない。断言しよう。無い!!!!!!!!!!!!
だから飛鳥の妄言だって気のせいだ。
そのはずだ。



素直になって話そう。
油断していた。
飛鳥が珍しく謝ったりらしくない事を入ってこっちの気が緩んでいたのだ。
そのせいで、すっかり気を抜いていた。そして忘れていた。

飛鳥がどんな悪魔よりも悪魔で、どんな女の子よりも女の子だっていう事を。

一言だけ言うなら。
『女の買い物は長い。』
という事だ。

かれこれ、この店に入って50分。
飛鳥は軽く二桁はこえるような数の服を持って試着室に陣取ってる。
服の山が大量につまれて、一定の時間おきに試着室で服を着てそれを俺に見せ一着一着ゴミでも放るかのように既に着用した服の山へとつまれる。
これほど服屋殺しな女がこの世界にいるだろうか。
いるはずがない。
もしいたとしたらそいつは飛鳥弐号だ。
こいつが一般の人(林檎等)なみにおしゃれ好きなのはいいが一番困るのは他人の迷惑をかえりみない事なのだ。
シャッというカーテンの開く音がする。
「ジャジャーンッ!! どう、これケン! 可愛い?」
「ああ、可愛い可愛い。」
もはやこのやり取りもこの50分間の間で30回以上はしている。
ところでこれ、飛鳥。本人はもう忘れたんでしょうか、このデートの本来の目的。
もう純粋にデート楽しんでるだけじゃ………………ん、まてよ。
もしだ、もしもうストーカーが諦めて帰ってしまった場合、これはもうまぎれも無くデートなのではないか? 少なくとも偽装デートなんかしているとは周りには見られないはずだ。
もしやこれは、

飛鳥にハメられた!?

「ん? どったのケン?」
「いや、うん…………大丈夫だ。」
らしくもない。
何で俺が飛鳥ごときに赤面するような事せにゃならんのだ。

こいつは!!!

ただの!!!

幼馴染で!!!

俺はなんとも思ってない!!!

そうだ、そのはずだ。
だからいろいろと気のせいだ。
ただ、一つだけ心残りがあるとしたら……
「ねぇねぇ、ケン! これは? これどう!?」
散々にはしゃいでいるのだが、飛鳥が試着している服、俺が買うのかなぁ?
そしたら財布の中、足りるかなぁ……?



「う~んっ!! やっぱこれよね!! ロイヤルプリンセスパフェ!! 一人出来て食べるのも味気ないし、それに他人からおごってもらったものだから余計に美味しく感じるし!!」
「………………………………。」
結局、服屋では数十着選んで、全てを買う事は流石にできないので数着買い、そのせいで、俺の財布からは諭吉さんが数人消えてしまった。
そして尚且つ昼飯と称して喫茶店に行き飛鳥は店で一番高いパフェを注文。なんと野口さんと菊のコインが数枚出て行ってしまった。
おかげで諭吉さんや野口さんで賑わっていた財布は今や野口さん一人きりと平等院鳳凰堂が数枚。
白く燃え尽きたって、いいはずだ……。
「いやぁ~、悪いね、ケン。デートだからってこんなよくしてもらって♪」
「いや、いや……いいんだよ、いいんだよ。」
もはや、悪態つくことすら出来ず。
今日使った金で俺、数日暮らせるよ。
そう思ったら、なんかとてつもなく自殺したくなってきた。どうせ死ぬなら懐が暖かいまま死にたいのだが、もうそんな事すらどうでも良くなる位になってきた。
「そういや、ケンは何にも食べてないけど、いいの?」
「……………………。」
「へんじがない、ただのしかばねのようだ。」
「……………………。おとめ座の私には、センチメンタリズムな運命を感じられずにはいられない…………。」
「おとめ座じゃないじゃん、あんた。」
っていうかいい加減に金返せよ。そっちの総額の方がきっと今日のデート代よりも上だ。
「お金を……返してください……。」
「…………なんか、男の土下座ってこんなに惨めなんだって、呆れてる私がいる……。」



夕方。
本来の目的を忘れているかのように……というか、絶対忘れているんだろうが、結局夕方のこの時間帯まで、一緒にいる。
無論俺の財布にたかる飛鳥は俺の財布の中身がないと行動力がそれに比例するため、無茶な行動に出ないものの……ぶっちゃけかなり迷惑だ。
行動もそうだが……言動が主に。
「ふぅ~、ん~っ、今日は充実したぁ~っ!」
「むしろここまで好き放題して充実してなかったら、それはそれですごいぞ。」
「あ、ケン見て。アニメ○トよ。」
「ないものを勝手に作り上げるな! んでそこまでして話題を逸らそうとするな!!」
「そうやって人間を導いていくのが飛鳥さんなのだよ。あ、今のを言い換えて飛鳥さんレクチャーにしておけばよかったかな。」
「とんでもなく壮大なレクチャーですね。」
「あ、見て見てケン。スカイ○リーよ。」
「とんでもなくすさまじい視力ですね。魔眼かなんかですか?」
相変わらず、飛鳥はボケボケだ。ボケボケボケだ。
「……な~んか失礼な事考えなかった?」
「いえいえ、滅相もない。滅相もないが……お前、絶対、今日の本来の目的忘れてるだろ?」
「えっと……町に救うシャ○ウの軍勢をぶったおす旅だっけ?」
「そんなタルタ○スなんかとは関係ない!」
「じゃあ、お母さんがアイドルで神話とまで謳われたけど、娘がそのお母さんをぶったおす物語だっけ?」
「そんなアイ○ス展開もない!!」
「じゃあ、なんだっけ?」
「若年性健忘症の疑いが見られますので至急、前世から人生やり直してください。」
「前世から人生やり直したら、地球2、3度は滅びちゃうよ?」
「お前は何者なんだ!?」
「月とか火星に代わってお仕置きするあれ。」
「あれ扱いすな!」
「ぶっちゃけ○ーラムーンは別にいいんだけど、プリキュ○の劇場版で野沢○子が出てたときは吹いたなぁ……。」
「どーでもいいわっ!!!」
「まぁまぁ、そんな事いわず。あ、見てケン。中の人よ。」
「だれの!? 誰の中の人!?」
「ミッキーマ○スとか。」
「そういう中の人!?」
飛鳥はこれが素なのか演技なのか分からないから困る。
「ったく、飛鳥もいい加減そういうとこ直せよ……。」
「そういうとこって?」
「だから、唐突に話題逸らしたり、妙なボケを振ってきたり……。」
「いいじゃん別に。私は私らしくしてないと逆にダメだよ。」
「はぁ……。そんなんじゃまともに人付き合いできんぞ。」
「別に、あんたと林檎ちゃんと生徒会の人達さえいれば普通にいいよ。」
「そういうのじゃなくて……今回だって、ストーカーされるほどに、恋愛沙汰でめんどくさくなっただろ? お前、要領はいいから友達は多くてもそんなんじゃ彼氏とか一生できないぞ。」
「要らんよそんなの。」


「…………そう言っててもなんかいろいろ距離感つかめてなかったからこうなったんだろ。」
「まぁ、それは……そうなんだろうけど。」
飛鳥は、本当に誰とでも友達になれる。他人がいくら壁を作っていたって、それをぶち壊すどころか、若干無視している感じでズカズカと他人の心の中に入っていく。
それは別にいいのだが、問題なのは飛鳥はそれゆえに、あまりにも早く他人の心の中に入って、悩みを聞いてやったりする。俺にはそんな姿はしないが、意外と面倒見がいい。
だから、女子ならともかく、男子だとここまで親身になってくれるんだからおおかれすくなかれ、自分の子と想ってくれてるんだと思う。
実際飛鳥にそんな気はないから告白なんてされると逃げるし、今回のようなことも実は高校に入ってからは初めてだが以前に数回ある。
だから、飛鳥の評判は容姿もそれなりにいいせいで『男を誘ってたぶらかしてる』だとか『男の心を遊んでいる』と陰口を言われている事もしばしばだ。
壁陽は基本生徒がいい人ばかりなので飛鳥の陰口なんて今のところ聞いてないが、やはり今回のことで多少なりとも飛鳥を快くは思わなくなっただろう。
「そんなでも、飛鳥とこれだけ付き合ってるんだから、俺っていい人よね。」
「そうだよね、確かにケンって私の事結構いろいろしてくれてるしね。」
「なんだよ飛鳥らしくも無い。」
「たまには私だって少しは改まるさ。ま、ケンにだったら意外と何されてもいいしね。」
「は?」
今、こいつなんて言った?
「え、ま……ちょっ」
「な~んて言えば、男の子は嬉しかったりするのかなぁ?」
「殺す!!! 今すぐ殺す!!!! 俺の純情弄んだ罪で殺す!!!!!」
「あははっ! 油断してるからだよ! んじゃ、私はこっちだから、また明日ね~」
飛鳥がそういってT路地を曲がる。
「ったくああいうことしてるから変な噂が立つんだって。」
俺ならともかく、他の男子生徒なら、ほんとに何かしら想うぞ。
「ああいうとこ直さない限りは、彼氏なんて出来ないんだろうな……。」
そう思いつつ懐が寒いまま、俺は帰路へとついた。



あれから数日。
窪野とやらはあれから飛鳥には干渉しなくなったらしい。
飛鳥はそれを面白おかしく改ざんしているが、実際窪野とやらは変な噂も立てずにいてくれて若干安心した。
飛鳥の態度はあれから変わらず、むしろ俺がおかしくなっている。
何だか知らんがこの前のデートのせいで飛鳥がいちいち誘惑してくる。
昔ならなんとも無かったが、いちいち赤面したりするせいで余計にからかわれる。
別に飛鳥だけならともかくいまや生徒会のみんなにもからかわれるからなおさら嫌だ……。
それで、からかわれるついでにお申し付けを受けた。今度の日曜日の演劇部が講堂にお客さんを招き入れて何かするらしい。それの掃除と現場の点検。掃除というほどではないのだが一応の何が置いてあるかの点検といったところだが。
行動のドアを開けて中に入る。まあ鍵を渡されて無いから、先に誰かいるのはわかっていたが、
「んしょ……ん~っしょ。」
「まさか、飛鳥がいるとはな。」
「こらケン。口じゃなくて手を動かせ。あと足と頭と運と重火器。」
「俺とお前は一体何を始めるつもりなんだ?」
「戦争の下準備♡」
「可愛くハートつけても大犯罪だからな、それ。」
「飛鳥さんレクチャー『犯罪は、ばれなきゃ犯罪にあらず!!』」
「オイ。」
「という訳で、この舞台を戦争チックにカモフラしてあげましょう。」
「うん、やめような。」
「ちぇ~っ」
飛鳥がそういって、舞台裏へと歩いていく。
どうでもいいけど、こんな講堂の奥にはでか過ぎる大道具だよな。
相違や何時だかの部活の予算要請では『宝塚で修行するので予算を』みたいな要請があったなぁ……。
だから、こんなはばが一定の大階段とかすごい重そうな羽の飾りとか作ってるのか、納得。
っていうか床がギシギシ鳴ってるぞ、危ないな。

――刹那。

そのギシギシ鳴っていた床がさらに大きく音をたてる。
ガタン。
響く音。
揺れる大道具。
何かを考えるよりも早く俺は飛鳥の手をとって引っ張った。
「わぁっ!?」
その直後、俺へと向かって大道具が倒れてくる!

ゴッ!

「ぐあ゛っ!」
背中と頭に思い衝撃を受けて俺の視界は一瞬真っ暗になる。
目から火花が出るほどの痛みと腕の下にいる飛鳥の体温を感じながら。



突如、ケンが私の腕を引っ張った。
一体何事かと思ったけどすぐに何が起こったかわかった。
ケンが私の事を覆いかぶさって、舞台の上にあった倒れてくる大道具から庇ってくれる。
ゴッ! というとても人間に当たったら意識を保ってられないような響きのいい音がする。
「ぐあ゛っ!」
それに連なるようにケンの痛みを伴った声が聞こえた。
見た目異常に重いのか、ケンが四つんばいで踏ん張っても肘の関節が折れ曲がる。
腕から軽くミシミシという音もした。
「ケ……ン……」
何か、いわなきゃいけないと思ったけど、何を言うべきかがわからない。
だって、こんな状況、たったの一度だって体験した事が無い。
「ぐ……ぅ……あす……か、だいじょぶ……か? 」
「え……あ、う、うん……だ、だいじょぶ……。」
「そ、か……なら、まずは安心だな。いつつ……。」
「あ、安心て……ケン……そんな怪我、してんのに……。」
今気付いたけど、自分らしくも無く声が震えてる。
ポタ、と何か温かい水みたいなのが頬にたれてくる。
それは汗でももちろん雨漏りでもなく、ケンの血だった。
「ケ、ケン……ちょ……ち、血が……。」
「あ、ああ……悪い、顔、汚したな……。」
こ、こいつは……。
何でこんなに流血していて死にそうなのに私の心配なんかできんのよ!
って、怒っても仕方ない。
「さて……ずっとこうしてると、ホントに死にそうだしな……どうにか、抜け出せそうか?」
確かに。
ケンは強がって振舞っているけど、ケンの背中や頭からは冗談じゃすまないほどの血が流れている。
それは垂れているのではなく本当に流血していた。
「ごめん、ちょっと、無理っぽい……。」
別に無理をすれば出れなくはない。でも、ケンの腕からはさっき骨がきしむような音がした。だとするとケンの腕は少なくとも無事という事は無いと思う。
その状態で無理に私が出ようとしたらただでさえ不安定なこの状態は下手したらもっととんでもなくなる。


どうしよう。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
焦れば焦るほどに冷静な考えが失われていくのがわかる。
こうしているだけでもケンが辛そうにしていて、時間が経ったら最悪な事になってしまうじゃないか、そう思うと体が、震えて、何も出来ない。
急に目じりが熱くなってしまう。
「っ……ご、ごめっ……ケ、ン……っく」
どうしようもない後悔と申し訳なさでもう何年も泣いた事がないのに目から涙が出てくる。
「なくなって、飛鳥。別に見た目ほどたいした事無いからさ。」
「で、でも……。」
「だいじょぶだって……でも確かにこのままだといろいろあれだし、飛鳥、俺の上着のポケットの中の携帯出せるか?」
「へ? う、うん。多分。」
「じゃ、それで、会長なり知弦さんなりに電話してくれ。」
「う、うん……。」
そうは言ってもさっきから腕が震えて言う事を聞いてくれない。
動け、動いて……動いてよっ!
すごく情けない速さでケンの上着のポケットへと手を向かわせる。
ピ……ポ、パという電子的な音が聞こえる。
プルルルルルルルル
そしてまた電子音が聞こえてくる。
『はい。キー君? どうしたの?』
「あ、知弦さんですか? 飛鳥なんですけど……。」
『ん、どうしたの飛鳥? 声震えているみたいだけど。』
「ちょ、ちょっと講堂で事故っちゃいまして、SOS頼めないかなぁ、と。」
『どういうこと?』
「大道具がバランス崩して倒れかかちゃって、私は大丈夫なんですけど、ケンの方が怪我してて。」
『了解したわ、すぐそっち向かうから。』
「は、はい。」
電話を切って携帯を耳から離す。
「終わった……か?」
「う、うん。」
「そ……か、ぅ……。」
ケンの体がぐらりと倒れ掛かる。
「ケ、ケンッ!」
「ぅ、ぐっ……ごめん、意識、一瞬消えてた。」
そう言い終わった瞬間生徒会の皆と、真儀留先生と数名の職員が入ってきた。
そのあとぐったりとしたケンが職員につれられて、保健室につれられた。
実際その場にいてもあんまり何が何だかよく分からなかった。
それほどに混乱していたのかもしれないし、もういっぱいいっぱいだったのかもしれない。
だけど、何故か、胸の奥がすごく痛かったのだけは覚えていた。



「起きないなぁ、こいつ。」
あのあと、ケンは保健室につれられて応急処置を受けた。
出血は酷かったものの、実際はそれほどではなく数日安静にしていれば治るだろうと言われてた。
別にそれはそれでいいんだけど、全く意義は無いんだけど。
問題はこの私がケンの前でいくら混乱していたとしても、涙を見せた事。それが何よりも不覚だった。
「…………。」
今更ながら、何て女々しかったんだろう、いや、女だけどさ私。
「はぁ……。」
まあ、それは100歩譲っていいとして、いや全然よくないんだけど! もっと悪い事があるから仕方なく譲ってるんだけど!! もっと問題なのはこの二人きりで保健室にいることだ。
まあ、別におんなじ部屋に二人でいてもそれ自体はいいのだが、問題は私が、この私が不覚にもさっきの一連の騒動で

こいつの事を好きになっちゃったことだ。

「~~~~っ!!!」

あぁっ、もぅっ!!!! 改めて自覚すると腹立つ!!
「何でこんな間抜けな顔して寝ている奴の事を……。」
でも、その表情を見れて少しでも嬉しいなぁ……って思ってる時点でもう負けだと思う。何に負けているのかは知らないけど。
くそぅ、こいつめ。いくら付き合い長いからってこんな簡単に惚れさせやがって。
ま、恋は惚れたもんが負けって言うのは聞いたことあるけど……なるほど、私は男の子の友達にこんな悶々させてたわけだ。なるほど、なるほど。
まあ、納得してもダメなわけだけどね。
包帯の巻かれたケンの顔を改めてまじまじと見る。
「…………。」
ケンって……男の癖に肌綺麗だなぁ……そりゃ女の子みたいなハリと言うか瑞々しさは無いけど、この年頃男の子にしちゃ綺麗なんじゃないかな。そう思う。
ふと、指をケンの頬に立ててみる。
「ふ~にふに。」
意味も無く、そういって突いてみる。
「んっ……んん。」
うん、反応があると面白い。
「ふ~にふにふに。」
「っ……やめろよ……林檎……。」
「んなっ!?」
い、いくら寝てるからって私と林檎ちゃん間違えんなんて、何なんだこいつは!!
「ったく……確かに林檎ちゃんは私より心配そうにしてたけどさ……。」
半ベソどころか全ベソ状態でまるでお葬式状態だったけど、あん位したほうが女の子は可愛いのだろうか。
「どうせ、私は、可愛くなんかないですよーだ。」
そういって飽きることなくケンの頬を突いてみる。
そんな事をしていたらケンが私の指を咥えた!
「わぅっ!?」
人差し指の爪が隠れるくらいに咥えられている。
「ふ……むむ…………。」
なんかそのまま抜く事も出来ず、ただ、固まったようにじっとしている。
(こ、これはまさに能ある鷹は爪隠すって事なのかな?)
んな馬鹿なことを言ってもしょうもない。
「さて、どうしよ……。」
このままでも別にいいことはいいのだが、微妙にケンの口の中が暖かくて気持ちいいし、そもそもこんなとこ見られたらそれこそ恥ずかしい。
それほど噛む力を入れてなかったから簡単に抜く事はできた。
当然だが、私の指にはケンの唾液がついてる。
「…………。」
って、今私何考えようとした!? そ、そりゃ、汚れてるわけだし、拭かなきゃいけないとは思うけど……。でも手ごろになんかそれっぽい付近は無いし……。

……………………舐めちゃおうか。

「ってだから私は何考えてんだぁああぁああぁぁぁ!!」
ヤバイ! だいぶ私の頭の中は汚職されてる! これが不治といわれる恋の病か!! 確かにこりゃあ、末期にもなる!!
今の大声のせいでケンが目をこすって起き上がる。

…………マズッたなぁ。



目が覚めたら底は白い天井が目に入った。
「あ、れ……なんで俺こんなとこにいるんだ……?」
さっきまで行動の舞台の上にいたはずなのに……。
そういや、頭がずきずきと少し痛む。
一つづつ過去を遡ってみる。

保健室にいる←X←講堂にいる

Xにはいる事柄は何?
という感じか。

要するに、事故って怪我して運ばれたってことか納得納得。
「あ、ケン、起きた。」
ベッドの脇の椅子には飛鳥が座っていた。
「ん、ああ、ごめん飛鳥、心配かけちゃって……。」
「ほんとだよ、全く。いくら助けようって思ったからってあんな危ないことするもんじゃありません。」
「う、すいません。」
普段よっぽど飛鳥のほうが危ないことしているのだが、突っ込まない事にする。
「ま、でも、助けてくれたお礼はしないとね。」
「は? 別にいいよ、んな物。お前が無事ならそれで十分だ。」
「そーゆーわけにもいかないの。ほら、とりあえず目閉じて。」
「? 何する気だよ……。」
普段の飛鳥なら怪しいと思っていた行動だが、流石にこの状況でそんな事はしないと思って目を閉じる。
その瞬間。

何か暖かくて柔らかい物が唇に触れた。

「んっ!?」
何かと思って目を開けた。
目を疑った。

飛鳥が俺にキスをしていた。

「ん……。」
ほんの数秒、唇付け合せただけだった。
「えへへ…………。」
何を言うべきか分からず、何だかにやけている、飛鳥に思わず叫んでしまった。

『俺のファーストキスがああああぁぁぁあぁああああああぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁあああぁ!!!!!!』

思わず飛鳥もずっこけていた。
「あんたものすごい純情ね! 天然記念物なみだ!」
「畜生……16年間守り続けていたファーストキスだったのに……。」
「うん、ほんとにいちいち女々しいからやめよう?」
「て、って言うか、飛鳥も飛鳥でなんでキスなんかっ!?」
「ん? したかったからしただけだけど?」
「なにがしただけだけど、だ!!」
「え、舌だけなんて……ケンったら大胆なんだから……。」
「漢字使うな!! お前のキャラじゃない!!」
「まあ、別に、本当にキスしたかったからしただけだよ。やましい事なんて一切ナッシング。」
「まるでそうは思えないんだが……。」
「というか、キスしたいからするっていう発想も若干あれなきが……。」
「もちろん誰でも、いいってわけないでしょーが。ケンだからいいって思ったんだから。」
「は……? そ、それって、お前、もしかして、俺のこと……。」
「あれ? 今言っちゃう? そこで下世話な話してぶち壊しちゃう?」
「だ、だって、おまっ……。」
そこまで言い切ったところで飛鳥が唇に指を当てる。
「ちゃんと、言うから。だからその……聞いてて。」
いつに無く飛鳥が女の子らしい顔つきになる。
「え、えっと……コホン。な、なんか改まると恥ずかしいねこれ。」
「聞かされるこっちはもっとドキドキするんだからな。」
「う、うん……りょーかい。」
飛鳥が一つ、二つ、と深呼吸をする。


「じゃ、じゃあその、あの……わ、私、ま、松原飛鳥は……そ、その、あ、あなたの事が……ケンの事が………………好きです。」

予想していたどおりの言葉。
飛鳥からの告白。
俺が寝ている間に飛鳥にどんな信条の変化があったのかは知らない、知らないが、少なくとも飛鳥が冗談で言っているようには見えない。
俺は、一体……どうするべきであろう。
そりゃ、確かに俺だって飛鳥のことは好きだ…………けど、それが恋愛感情かは分からない。
でも、今の飛鳥の、この姿を見ていると……とても断ることは出来ない。
いつも無駄に快活な飛鳥からは見れない、すごく頼りなく、弱々しく見える。
「飛鳥……俺で、いいのか?」
「…………うん。」
「お前だって分かってるだろうけど、俺だぞ?」
「…………うん、ケンだから、いいの……。」

「……なら、うん、分かった。付き、合おう。」

こうして、俺と飛鳥は付き合う事になった。



飛鳥とつき合う事になって、数日が過ぎた。
結局しおらしかったのはあの一瞬だけで、今は元通りのあの調子のままだ。
まあ、そのおかげで周りには付き合っていることはばれてないので、それはそれでいいのだが。
だが時々、飛鳥と一緒に帰る時などに、手をつないだり、腕を組んだりをする時の飛鳥の態度が変化するところを見ると少し嬉しく思ってしまう。
こういう事を思っている分、いささか自分も飛鳥の事が好きだったみたいだ。
まあ、でも、あれ以来キスや恋人らしいこともしていない。
若干それが寂しいのだが、何だかなぁ……。
そう悶々していたら急に視界が真っ暗になった。
「だ~れだ?」
聞きなれた声が後ろから聞こえる。
「飛鳥、危ないからやめろ。」
「なんだよぅ、少しは間違えたりしてきて乗ってもいいじゃん。」
「乗った結果が酷くなるといやだからな。って言うか間違えようがないだろ。」
「例えば『おまえは千手観音だな!』とかボケてもいいじゃん。」
「俺ドンだけ目を隠されてんだよ。」
「って言うか、手だとしても100とか1000枚も重なったらどの程度厚くなるのかな。」
「1000も手あったらまず邪魔だしな。って言うか、そこを掘り下げて話すなよ。」
「…………。」
「ん? どうした飛鳥――。」
不意に

いきなり唇を重ねられた。
「!?!?」
前にキスしたときもこうやって不意打ちされたが、だとしてもこの不意打ちだけはどうにも対処できない。
「っ……は……へへへ、キス……しちゃった。」
「しちゃったって……お前。」
「……だって、ケン、付き合ってるって言うのに、全然恋人らしい事、何にもしてくれないんだもん。」
「いや、そりゃだって、いろいろ噂されるとか嫌だろ?」
「別に。」
「えぇ~。」
「そうやって噂して楽しむ奴等がいるのは私だって知ってるし、ケンがそういうのいやかもって思ったから数日我慢してたけど……もう、我慢出来ないや。」
「飛鳥……。」
「ねぇ……ケン、恋人らしい事、しよ?」
「……っ!!」
「私とじゃ、嫌?」
長年、飛鳥と一緒にいるが、こんなに色っぽくて可愛い飛鳥を俺は見た事が無い。
林檎と同じく、そんな目じゃ見ちゃいけないとずっと思って、我慢してきた。
でも、こいつのこんな顔を見たらそんな理性なんて物は崩れた。
だけど、最後に一つだけ聞いておく。
「本当に……いいのか?」
「……うん。」
「後悔……しないな?」
「するわけ無いじゃん……ケンとだったら……。」
「だったら……分かった。家で、いいよな?」
「……うん。」
心の奥に気恥ずかしさをもちながら手を握って自分の家まで帰った。



  • 最終更新:2011-10-30 04:06:17

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