Kさんの小説6-3

《杉崎鍵視点》

そんなこんなで、結局椎名姉妹とのダブルデート状態だったが、心から、楽しいと思えた。そんな一時だった。
で、深夏が「最後に、観覧車乗ってこうぜ、観覧車!」と元気に言うので、とりあえず向かっているのだが。
「……観覧車、二つになってませんか?」
「増殖……だとっ!?」
「うおぉぉっ! 見ろよ、鍵! 右のほうの観覧車、あれは今朝のパンフレットで見た大車輪じゃねぇか!?」
「ギャーっ!! あんなもんマジで作った奴だれだっ!?」
「けっ、けけけけけ、鍵輩! 落ち着いてくださいっ!!」
「真冬ちゃん!? 一応言っておくけど、俺の名前は"けんぱい"じゃないからね!?」
むちゃくちゃ楽しそうですね状態の深夏と、まさかあれに乗るんじゃないだろうな状態の俺と真冬ちゃん。
すると大車輪が、何故か騒がしくなった。

「うっ、うわ~~~~~~っ!!」

『…………』

「おっ、落ちる、おち――バンッ!!」

『(あれ、絶対落ちてますよねぇっ!?)』
目の前で、恐ろしい惨劇を目の当たりにしてしまった俺達は、被害者の無事をそれなりに強く祈り、左の観覧車に乗ることにした。

……それで、来たはいいのだが。何かがおかしい。
同じことを思っていたのか、深夏が代わりに口を開く。
「……なぁ、二人とも。この観覧車、誰も乗ってないぞ?」
「まぁ、大車輪に乗るだろうな、一般の客は。それと、真冬ちゃんはあっちだ」
俺は、係員の居る建物で、話を聞いている真冬ちゃんを指さす。
……あ、帰って来た。トコトコ歩く姿、まさにエンジェル。
「どうだった、エンジェ……げふん。真冬ちゃん」
「エンジェ? あぁ、えっと……どうやら、この観覧車は、大車輪のせいで日の目を見ることが無くなったそうで」
「それは、大体予測できたけどね。つーか大車輪いらねぇだろ!」
「あたしは、あれに乗る覚悟はできてる b<グッ!」
「Σd」
「頼むからそこの美少女姉妹、会話文で親指Goodするの止めてもらえませんっ!?」

『……ゑ?』

駄目だ、一向に止まる気配がない。


「見ろよ鍵、真冬! すっげぇ高いぜっ! ラスボスの気分だっ!!」
深夏は随分とはしゃいでいる。そして地下で主人公を待つラスボス達に謝れ。
「凄い……高くて、奇麗……っ!!」
真冬ちゃんは、光景に見とれているようだ。
静けさが残る夕方、夕焼けのカリフォルニアオレンジを浴びる無数の建築物は、とても幻想的だった。まるでどこぞの西海岸のようだった。
窓に反射し、橙の光沢を反射されているかのような光景が、俺達を茫然とさせ、まるで空の上に居るのではないかという錯覚すら覚える。
あながち間違っていないのだが、実際狭いコンテナの中。窮屈、それでいて快感。あぁっ、柔らかい! こっちに全神経が集中しちゃうっ!!
「おい鍵。もう少しそっちに行ってくれ。狭い」
「杉崎先輩。もうちょっとあっちに行ってください。狭いです」
「何故俺を真ん中にしたんだこの美少女姉妹めが」
「いやあれだよ、電車で角の席へ優先的に座ってしまうというあれ」
「こんな狭いコンテナの中でそんな日常で自然に行ってしまう動作しなくてもっ!」
とは言え、両手に花とはこのことだ。……んっ?
「この観覧車、随分とゆっくりだな」
「本当だな……って、始めはこんなに遅くなかった気が……」
ゆっくりと、止まっているのではないかと思うほどにマイペースな観覧車は、俺達のコンテナを徐々に天辺まで運んで行く。
そして、俺達の入っているコンテナが観覧車の一番上、つまり頂上まで登った。……その時――

ガタンッ!!

「……何だっ!?」
鈍い轟音と共に、先ほどまでゆったりとしたペースながらも稼働していた観覧車が停止した。
……停止した……っ!?

『……………』

轟音が耳から去った後、暫くの間、コンテナ内は静まり返っていた。

       ざわ…
                   ざわ…

「いや、無理に静寂を打ち砕こうとしなくてもいいから」
「何だよ鍵。人が折角ざわざわしてたのに」
「折角っ!? ざわざわすることは勿体無いことと同列だと言うのかっ!?」
「ホラ、折角ざわざわしてやったんだ。さっさと助けでも呼んできてくれ」
「ざわざわしてくれてもこちとら何も得してないからねっ!?」
「でも先輩。私達はスカートですし、先輩は空中戦、得意じゃないですかっ!」
「いやいやいやいや、スカートだからってのはいいとしてねっ!? 俺は翼も無ければ舞空術も使えないからねっ!?」
「松尾昭さんみたいに超魔術を使えばいいだろ?」
「使えないよ超魔術っ! そもそも何故Mr.マ○ック本名で呼んじゃったの!?」
「キテますっ!!(先輩の頭が)」
「キテないよっ! そして今物凄く失礼極まりないことを考えてなかったっ!?」
「これがあたしの手力だ(ガシュッ)」
「ふぬぁぁぁああああっ!!」
凄く物理的なハンドパワーをお見舞いされた。
後、マリ○クプロモーションに謝ってきてください。


「しかし困ったな……真冬ちゃんの言っていた通り、俺達以外の人が誰も乗っていないなんて……」
「それに、係員の人が気付いてくれるかも心配です。普段は誰も乗らないから、止まってても不自然じゃない、と言っていましたし」
まぁ、先の大車輪に人を突かせるのは仕方ないか……危ないし。
「それでもカメラくらいは付いてんだろ。救助が来るまで待とうぜ」
「相変わらず深夏はポジティブだねぇ」
「あぁ、いざとなったら自力で抜け出せる。心に余裕を持てよ」
……何ですと?
「自力で抜け出せるのなら、今やってほしいんだが」
「駄目ですよ杉崎先輩。そんなことしたら、ドアの修理代請求が来てしまいます」
「そうだね、この子、人間じゃないもの」
何故窓ではなく、扉を割るのだろう。まぁ、窓を割ってまで出たい状況でもないが……。
むしろ深夏の場合、割ると言うよりも壊すだろうか。深夏クラッシュ恐ろしや。
「おいこら鍵。今何か言ったか」
「深夏の人間とは到底思えない怪物的な破壊力(ギギギッ)で今にも俺の胴体がぁあああああああああっ!!」
あふっ、痛いのって気持ちいいのね。
「今一瞬、凄くマゾヒスティックな顔が見えた気が……。何か"あふっ"ってしてた気が……」
「お姉ちゃん……世の中には、知らなくていいこともあるんだよ」
「そっ……そう、だな」
「でも先輩は、世の中をもっと学ぶべきです」
何を急に言い出すんだ、この子は。
「ということで先輩、見た目は子供、頭脳は大人な高校生探偵になって、真実を見抜いてください!」
「アポトキシン4869を飲めとっ!?」
プログラム細胞死しろ、と言われているようなものだった。
「ちゃっ、ちゃんと白乾児の用意は出来てるんだろうねっ?」
「そこで飲む気を示すのもどうなんだ、おい」
「さぁ先輩、貴方は今日から名探偵ですっ! 真実……すなわち、自分の歩むべき道を見極めるのですよ。……BLという、薔薇の道を」
「真冬ちゃん、さりげなく俺をそっち方面に引きずり込むよねっ!攻略対象ながら、恐ろしいよっ!」
これが真冬ちゃんの恐ろしいところだ。あぁ、後ろに千手観音のようなものが見える。無論、俺をそっちの世界へ引きずり込む手だが。
「そういえば先輩。アポトキシンは分かるんですけど、何故4869何ですか?」
「ふふん。愚問だよ、マフソン君」
所で、マフソン君とは誰なのだろう。言った自分すら分からない。
「あれは『シャーロック』をもじっているのだよ、マフソン君。出来そこないの名探偵、という俗称でもあるのだよ、マフソン君」
「すっげぇ腹立つ言い方だな、ワト崎君」
「何故返した、深夏君」
「何故ワト夏君とかでもなく、通常の『深夏』に『君』というチョイスをっ!」
あっと、そうだったな。ドラマCDでもそうだったが、深夏は他人と違う扱いをされることに不安を抱いている可愛い乙女なのだ。
「でも惜しいですね。出来そこないの男子生徒なら、明らかに杉崎先輩のことなのに……」
「ちょっとアイキャンフライしてくる」
相も変わらず、地味に酷い真冬ちゃん。
性格は正反対の筈なのに、結果的に俺を苦しめるという点で姉妹っぽい不思議っ!


「まぁ冗談はこれくらいにして、だ」
「ん?」
「夕焼けよりも、二人の方が綺麗だよ」
「うん、何故いきなり口説きモードに入ったんだろうな。そして気持ち悪い」
「やっぱり先輩はここからアイキャンフライするべきです」
「下手に出ていればこの鬼畜姉妹め……今ここでっ! 俺がっ! この手でっ! 服従させて――」

「パロ・スペシャル」

「あなた達に私の永遠を」
逆従だった。
「まったく鍵は……本当にどうしようもねぇぜ。なぁ、真冬。……真冬?」
「ふぇっ!? ごっ、ごめん、眠りかけてた……」
「何だよ、疲れちまったのか? 全く真冬は、体力全然ねぇよな」
「…………ぅ」
『ん?』
俺と深夏は顔を合わせ、続けて、不思議そうな様子で真冬ちゃんを見る。
「疲れて、眠っちゃったな」
トンッ
「あっ……」
真冬ちゃんが、俺の肩に体重を預けた。これは嬉しいドキドキイベントだが、深夏の視線が痛い。
「いや、この件については俺、なにもしてないよね!?」
「まだ、な」
「この後も何もしないよっ!?」
何と言う妄想詐欺。これも深夏のブレインコントロールなのだろうか。いや、ごく自然に洗脳しちゃう深夏、恐ろしいけどさっ!
「……むにゃむにゃ。うぅーん……」
「しかしまぁ……本当、気持ち良さそうに眠ってるね」
「……すぅ、すぅ」
有りがちな寝息も、真冬ちゃんにとても似合っているせいか、違和感どころかとても可愛らしく聞こえる。
「……んっ、先輩……」
ちょっと失礼します!
「おいコラ、今真冬に何しようとした、ん?」
「ギクッ! い、いやNE!? 男の子なら仕方の無いこと何ですYO!!」
「普通に話せよ、気持ち悪い」
そう言って深夏は嘆息し、真冬ちゃんへと視線を向ける。
その眼はやはり、少し切なさのようなものを感じた。

「あっ……杉崎先輩の中に……中目黒先輩のがっ!」

勿論俺も、真冬ちゃんには切ない目線を向けていた。割と前から。


「さて、真冬が寝ちまった訳だが……暇、だな」
「おっ、おぅ……暇だな」
『…………』
この、気味が悪い静寂。打ち破りたい、打ち破れない。深夏が同学年ということもあるのか、妙に緊張するのだ。普通、同学年なら心置きなく話せる筈なんだが……。
「……仕方ね―し、鍵。何か話すか……?」
「何……だとっ!?」
成程、若干デレてきたみたいじゃないか。これは深夏攻略のヨカーン!!
「デレてねぇから。質問しただけだから」
もう以心伝心(一方通行)については諦めよう。これは、俺が悪いわけじゃない、うん。
しかし……ふむふむ。これはこれは……ふっふっふ。
「今のお前を円グラフにしたところ、デレが37.2%だな」
「お前何気に特定の仕事に対して便利そうなスキル持ってんな! 後、あたしは旧品川火力発電所の熱効率かっ!?」
「はい、そうです」
「何でいきなり英文の日本語訳みたいな話し方なんだよっ!」
「はい、そうです」
「しかもリピート式だったっ!」
因みに、今現在はACCにより、熱効率は55%に上昇している。

かがくの ちからって すげー! ▼

「何を一人で盛り上がってる」
「お? 悪かったな、深夏。いや、本当に申し訳なかった。深夏は一人、いや独りが苦手な甘えん坊さんだもんな――」

「鍵。ジャーマンスープレックスと垂直落下式エクスプロイダー、どちらがお好みかな?」

「それはマジで危険だからっ! そして後者の何っ!?」
「なんなら、ペディグリーもあるぞ!」
「まさかのダブルアームクラッチ! つーか選択肢増やすな!」
すごく活力に満ち溢れているというか、暴力的というか。……む?
「はは~ん、分かったぞ」
「? 何がだよ?」
「寝ている真冬ちゃんを除けば二人きりということもあって、やはり俺にデレデレしたくて仕方がないんだろう?」
「だから、デレてねぇだろっ!」
「今はまだ、な」
「今後のスケジュールにも、デレるの『デ』の字も出て来ねぇから!」
「今はまだ、な」
「さっきから何その『未来を予測してます』的なキャラ演じてるんだよ」
「今はまだ、な」
「今!? 今だけなの!? 後から普通のキャラ設定に改変されんのっ!?」
「今はまだ、な」
「その予定すら、今の状況に過ぎないの!? それ、投げやりにも程があるんじゃねーのか!? むしろ槍! 室伏選手が槍回し投げした感じだっ!!」
おぉ、これは面白い。無意識のうちだったが『定められた一言』のコーナーを疑似的に行っていた。
「つーかお前、話題逸らしに置いて妙に天才的だな」
「……奴のお陰で、ちょっとね」
「……奴?」
「あぁ、飛鳥のことだよ。あいつの話題逸らしには、何か天才的なものが……深夏?」


「……あのさ、鍵。ちょっと聞きたいんだけど」
深夏が、少し躊躇いがちに、しかし遠慮は無いような複雑な目で、俺に問う。
「おぅ! 美少女の頼みなら、何でも応えるぞっ!!」
「お前さ、飛鳥って人と、付き合ってたんだろ?」
「えっ……あ、あぁ。まぁな。短い期間だったけど」

「それじゃぁ……キスしたこと、あるか?」

「…………」
五行前の自分を凄く後悔した。
その言葉を聞いた瞬間、俺は身体どころか脳まで硬直する。
正確には、せざるを得なかった、ということ。そういう状況だ。
いやまて、ただの聞き間違いといった可能性も否定できない。むしろそっちのほうが有力だと思う、思いたい。
これでも聴覚には自信あるんだ。先の美少女声探知能力を見てもらえれば、それが分かるだろう。
が、万が一を考え、恐る恐るに聞いてみる。
「悪い、耳がおかしくなったみたいだ。もう一度言ってくれないか?」
「キスしたことあるか?」
間違ってなかったよ。紛れもない現実だったよコンチクショー。
「な、何故急にそんなことを聞くのですか」
むしろ何故急に声が改まった敬語なのか自分に問いたい。
「何故って……何となく、だな」
「そうか。さて、救助の方々はまだかな――」
「で、したことあるのか?」
「ぐっ」
……あぁ、察してくれよ深夏さんや。
「ぶっちゃけキスなんて雲を掴むような話だ」
「童貞だもんな」
「ちょっと本気でアイキャンフライしてくる」
鋭利に研がれた言葉のナイフだった。
「冗談だって、事実だけど」
「君はどこまで俺を苦しめれば気が済むんだいっ!?」
"おいうち"だった。ダメージ二倍だぜ畜生。
しかし、深夏に限って、そんなことを聞くとは思わない。
むしろ深夏とキスなんて言葉は、それ相応に似合わない。これはあれか? 新手の悪夢か?
自分に疑問を投げかけ、それを解決すべく、頬を抓る。……痛ぇ、爪刺さった。切っときゃよかったな。
そんなしょうもないことが、俺の脳を彷徨う。
痛いってことは……これはリアルワールドなんですね。さぁどうしたものか。
「熱でもあるんじゃないか? 37.2℃?」
「何故その数字に繋げようとするんだ。つか、あたしはお前と違って、正常だ」
「待て待て、俺も正常だっての!」
「鍵、ハーレム好きか?」
「当たり前だろっ! 俺は世界中の美少女を、愛しているっ!!」
「以上有り。精神外科に行くことを強くお勧めする。というか行け」
「あぁん、深夏が冷たいよぉっ!」
何だか不機嫌なのか、ただやる気がないのか。
そう、言うなれば、迷っているような態度だった。
もっと簡単に言えば、長年の付き合いからして、イライラが募っているような態度だろうか。
「ハーレムのどこが悪いって言うんだ、深夏よ。素晴らしいじゃないか、一夫多妻制度」
「何がハーレムだよ……本当はそんなこと、自分でも出来ないって分かってるくせに」
更に言葉が尖ったようになる深夏。
「そんなことないって。現に真冬ちゃんは――」
そこまで行った時、深夏は、本当の殺気のようなものを展開し始めた。

「……ふっふっふ、鍵さんよぉ」

「なっ、何だ! この殺気はっ!?」
「分からねぇなら、あたしがきっちり教えてやるよ」
ふぅ、良かった。今まで途切れがちだったが、言葉のキャッチボールを、捕球しやすい胸に向かって投げ返してくれるようだ。ヨカッタ――

「本気であたしを怒らせると、どうなるか」

170キロのストレートで。


「ってのは冗談だが」

「おい」
今、展開的にやっちゃいけないことがあったような……いや、気にしないでおこう。
「まぁ、なんだ。ちょっとイライラしてたのは確かなんだけどな」
「そ、そうかい。で、結局何故経験の有無を聞いてきたんだ」
そうだ、それが気になる。今世紀最大の重要事項だ。
「……いや、それは……あれだ、適当に聞いただけで……」
「ほぅ、そうかい。深夏が急に何を言い出すかと思えば、何を言い出すかと思ったよ。うん」
「物の見事に文脈が成り立ってねぇな。……いやぁ、しっかしそうだよなぁ、うんうん。鍵がキスなんて……ねぇ」
「……何だい、それは。まるで、俺がキスなんて出来ないような、度胸の無い男だと思われてるんじゃないだろうな?」
「いや、むしろ色々と嬉しいって感じだ」
「えぇっ!? 何その反応! この前のアンケート回収の時みたいになってませんか!? ほら、深夏はもっと熱血で漢らしい……な?」
「…………へへっ」
あれ!? ツッコミきませんよっ!? おい深夏、そのやたらと考え込むようで、ニヤニヤな目は何だ!? そうか! この後俺を、どんな技で堕とすか考えてるんだな? そうなんだな!?
「だとすれば……椎名深夏、恐ろしい子っ!!」
「左手は添えるだけ」
「おぉっとぅ! 深夏選手の右ストレートが決まったぁあああああ!!」
完全ノックアウトだった。今日のタイトルは『唸れ右腕! 炸裂! ライジングエア!!』で決まりではなかろうか。
「大体な、鍵はデリカシーってもんが無さ過ぎるんだよっ!」
「おうおうおう、深夏さんや。それはさすがのおれも反論しますぜっ! 俺を良く見ろ、デリカシーの塊じゃないか」
「どの口が言うんだ、ん? この口か?」
「あぁ、この口さ。今にも深夏に迫り、熱い口付けを交わそうとしているこの――」
「そういうのがデリカシーなさすぎだって言ってるんだよっ!」
「アッー! 深夏、それ以上首がしまると、俺の中の人がぁっ!」
「中の人っ!? それはこのシリーズ的な意味でも、最大のタブーじゃねぇのっ!?」
「あ、やっぱもうちょっと絞めてくれていいわ。背中に二つのやわっこい感触が……でへへ」
「お前、喋るだけで、デリカシーという言葉から遠ざかっていくよな」
「そういう深夏も、喋る度にデレデレになっていくよな」
「ツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツン」
「あぁっ! 何これ!? 何だか可愛いっ!!」
「逆効果なのかよ、これって。仕方ねぇな、それじゃ――」

「あの……二人とも? お楽しみ中所悪いんだけど……もう地上よ?」

『…………ゑ?』
あれ? 何故知弦さんがここに?
「お姉ちゃんも杉崎先輩も、中々気付かなくて……。」
「……真冬まで!? いっ、いつの間に起きてたんだ!?」
「全く二人とも、こんな所でさっきからイチャイチャしてっ! 不純異性交遊は禁止だよっ!」
「別にイチャイチャなんて……してない、よな?」
「あっ、あぁ……別に、な?」

「……怪しい」


「やだなぁ、会長。嫉妬ですか? ですね? 嫉妬何ですよね?」
「別に嫉妬なんてしてないもんっ! ふん、杉崎なんて……別に……」
会長、俯いてブツブツしだした。これは……まさか、ガチ嫉妬!?
「成程。皆、俺と深夏のあまりのラブラブっぷりに、本気で嫉妬しているんですね、分かります」
『……別に』
「イヤッフゥ! 少し前の某沢尻さんもビックリの冷めた態度ですね! だがそれがいい!」
「あっ、あたしは別に、鍵とラブラブになった覚えはないぞ! 断じてっ!!」
「ふっふっふ、隠さなくてもいいんだよ、深夏。俺には分かる。あぁ、分かっているとも。こういうことは二人きりの時だけにしたいんだろ? 俺は分かってる。出来る男だから――」
「なぁ、知弦さん。その鞭、スペアあったら貸してくれねぇかな?」
「あら、深夏もようやくこちらの道へ歩く決意ができたのね。いいわ、四人でバンバン飛ばしましょう」
「愛する妹よ。お前がこの手紙を呼んでいる時、俺は既にこの世には存在していないかもしれない。俺は俺の愛人たちに嫉妬の炎を燃やされ、俺自身すらも巻き込む大火災へと発展してしまったんだ。あぁ、我ながらこの魅力が卑しい! 妹よ、林檎よ、最後に伝えたいことがある。今まで――」
BAN☆
「ありがとう、いい薬です」
夜の静けさに、俺は一人、地に倒れた。
遊園地を華やかなライトが照らす中、俺を照らしていたのは、唯一、月の光だけだった。

―――完―――

『行き成り終わったっ!?』
「…………」
「返事が無いただの屍のようだ。です」
「なんか、勝手にモノローグ残して勝ってに終わったよな……」
「次回から、主人公は誰にしようかしら」
「私が主人公でもいいけど……あっ! そうよ、私達はヒロインなんだから、主人公は中目黒君に――」
「それだけは許さぁあああああああああああああああああん!!」
「立った! ク○ラが立った!!」
「俺のハーレムを……中目黒に奪われてたまるかってんだ!」
「いや、誰も杉崎先輩のハーレムではありませんけど」
「さぁ皆! 俺の胸に、飛び込んでおいでっ!!」

「撃滅の……セカンドブリットォ!!」

「オウイエス!?」
本当に勢いよく飛んできた。まさか負けるジンクスのあるセカンドを、見事に決めてくるなんて……。
「ふっ。あたしが使えば、ファーストもセカンドも関係ないぜ!」
「見事……だ……ガクリ」
遊園地を華やかなライトが照らす仲、俺を照らして――

『そのモノローグまだ使うのっ!?』



  • 最終更新:2010-09-27 18:16:17

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