Kさんの小説6-7

で、顔を洗ってきた深夏の寝入りを阻止したのだが……。
「……なぁ、鍵」
「何だよ、急に」
「お前ってさ……やっぱり他人から見れば、ただの変態だと思うんだ」
「うん、それ言ったら反論できない自分を悔やみまくるから!」
幾度となく言われてきたことだが、改まって言われると……心に突き刺さるね。
「でも、あたしはあんま気にしてないから……98%は気にしてるんだが」
「うん、それはもう確実に『気にしてる』に分類される数値だよね」
ツンデレ深夏は正直だった。せめてここだけは天邪鬼になって欲しかったよ。
「まぁ、そう言う訳だ」
「……はぁ。そうか」
更に言えば、話の内容が、良く分からない。
「だから……」
だから、に続けて、俺の肩に凭れ掛かる深夏。……え? ……えっ?
「……お休み、鍵」
「あぁ、お休み……って! いやいやいや、話の飛び方が唐突だし! やっぱ、まずは家に帰りません!?」
適当に言い繕って、寝たいだけだったようだ。いや、だから家帰りましょうよ。
「んっ……すぅ、すぅ」
くそぅ! 姉妹揃って可愛い寝息しやがって! 一瞬ドキッとしちまったじゃねぇかコンチクショー!!
もうね、異常なまでに無防備な深夏が可愛すぎる。恐らく、歌いすぎて睡魔が襲ってきたのだろう。
今がもし深夜だったら『隙だらけだ』と称して襲いかかっていたに違いない。
が、いくらエロエロなことが好きなハーレム王こと杉崎鍵も、さすがに眠っている美少女に手を出すことはできない。
取りあえず、延滞料金にはなりたくないので、他の三人を起こす。
「おい、巡――」

「うふふ……パロ・スペシャル」

「さんは、そのまま安らかにお眠りください」
起こしたら何されるか分からん……というか、何故こんなにもパロ・スペシャル使える人が多いのだろう。
「おい、守――」

「あっ、姉貴……その首は取り外しできな(ガコッ)アッー!!」

「さんも、そのまま安らかにお眠りください」
きっと起こさない方が、彼の為になるだろう。つーか、何故効果音まで寝言に……。
「さて、中目黒――」

「すっ、杉崎君……。そんな大きいの……駄目だって、ば……」

「さんは、出来ることならそのまま永眠して頂きたい」
むしろ、中目黒本人が真冬ちゃんの毒牙にかかっているのではないだろうか。
しっかし、どうするかな……あっ、そうだ。
俺はピン! と、漫画で言えば頭の上に電球のマークが出るかのように、自分のバッグを漁る。
そう、携帯電話っ! この次世代機器さえあれば、何だってできる!!
……と、思う。
因みにお前ら、携帯って略称は正しいとは言えないからな? 携帯する電話なんだから、せめて携電って略称使ってあげてな?
「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった」
すぐさま、電話をかける相手へ電波を送信する。

「もしもし、こちら日本国際廃人育成システム研究会でございます」
「間違えました、ガチャッ! ツーツー……」
「SEを声に出してまでっ!? 待ってください杉崎先輩! 真冬が、真冬が間違ってましたぁっ!!」
「真冬っ! 真冬なのっ!? 今までどこ言ってたのよ! 生活は大丈夫!? いくらっ……いくら振り込めばいいのっ!?」
「えぇっ!? ちょっと嬉しい気がしなくもないですが、真冬は別に貴方なんて知りませんっ!!」
「そして振り出しに戻る」

駄目だ、話が進まない。


「で、本題何だけどね、真冬ちゃん」
「ふぅ。何でしょうか」
ツッコミとボケの両立に疲れたのか、安著の息を漏らす真冬ちゃん。
「今、カラオケに二年組で居るんだけど、深夏が居るのも分かってるよね?」
「え、えぇ……何だか、アブナイコトだと言う事は分かってます」
「アブナイコト!?」

何だっ! 一体何を誤解しているんだい真冬ちゃんっ!!

「いや、別にそんなことはないけど……まぁいいか。それで、深夏のことなんだけどさ」
「お姉ちゃんが、どうかしましたか?」
「その……寝ちゃったんだけど」

何だろう、変な意味で捉えられないだろうか。

「杉崎先輩……お姉ちゃんをどうする気ですかっ!?」
「そう来ると思ったよコンチクショー! 俺は何を!? 俺、やっぱり何か危ないことしてるのっ!?」
「はい」
「そこで『はい』はとっても精神的にきちゃうからやめてくれませんかねぇっ!?」
「YES」
「やめてぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

~五分後~

「はぁ……はぁ……」
「さっきのことも考えると、お姉ちゃんを前にして何だかいやらしいことを、な展開になりそうですけど、真冬は真面目に聞きますね」
「それが、普通の判断ではないでしょうか」
「通話料、嵩みますよ」
「全ては、君が変なシステム研究会立ち上げたのが元凶じゃないかなぁっ!?」
「まぁまぁwww」

あれ、何だか凄く馬鹿にされた気がするけど気のせいだと考えておくべきか。

「まぁいいや……それで、深夏が寝ちゃったんだが、迎えに来てくれないかな?」

香澄さんも心配するだろうし、俺が送っていくと嬉しい誤解を招きかねないだろう。
……あれれのれ?

「もしもし、真冬ちゃん?」
「…………です」
「ごめん、聞こえなかった。もう一回――」

「真冬は、お姉ちゃんを迎えに行きたくないです」


「……へ?」

何を言っているのだろう、真冬ちゃんは。
その疑問を問う前に、真冬ちゃんが言葉を続ける。

「お姉ちゃんのことは……先輩に任せます」
「いや、任せますって……取りあえず、椎名家に運べばいいかな?」
「……先輩、お姉ちゃんのこと、好きですよね?」

唐突、余りにも唐突なその言葉に、俺は『……へ?』と、先ほどと同じまぬけな擬音を出してしまう。

「そりゃぁ、好きだよ。深夏のこと」
「だったら尚更です。真冬は、先輩にしかこんなこと言いません」

分からなかった、全てが。
真冬ちゃんは怒っている様子でもなければ、悲しんでいる様子でも、ましてや楽しんでいる様子でもない。

「……それじゃぁ、また」
「あ、あぁ…………」

ピッ

「流れに飲まれて切っちまった……」
とりあえず、深夏を起こそう。そうしよう。
と、言う事で、深夏の肩に手を起き、揺する。
「んっ、う……ふぁぁ……」
さっき寝始めたのに、すぐ起きる訳ないか……。
「すぅ……すぅ……」
深夏、こういう女の子らしい一面は、本当に可愛いよな……。容姿だけでも、既に美少女なのに、心は漢、でもちゃんと女の子ってのがなんか……ヤバいわ
「…………んぅ」
もう少し堪能していたいのだが、生憎朝帰りということになって、深夏に粉骨YAHOOされるのだけは避けたい。
ってことで、深夏をくすぐって起こしてみようと、腰に手を伸ばす。
思えば、これが全ての引き金だと言う事を、俺は、知る由も無かった。
「……んっ」
かっ、可愛いっ! いや、まてまてまて。落ちつけ、杉崎鍵。これはきっと、誘ってると見せかけて罠なんだ。そうに違いない、うん。
「……んっ、すぅ……すぅ……」
あぁ……もう、罠でもいいや。
理性を捨て去り、いつもと違った一面の深夏を弄る、高校二年生。
俺からみれば正当な起床のための行動であり、傍からみればA級犯罪である。
いや、本当に変なことしてませんよ!? ただ、ちょっとついでに深夏の感触を確かめているだけで――

「……鍵。あたしの寝込みを襲うとは、どういうことだ、え?」

俺は、全人類が見習うべきなんじゃないかと思う程、申し訳なさを籠めて正座した。
仁王立ちで怒りを露わにしている深夏へ、全身全霊で反省のポーズである。
「…………(軽蔑の視線)」
「え、あ……その、えっと……ぷるるんっ!し○くちゃん あはっ☆」
「の、放送は終了致しました」
「ま、待ってくれ、深夏! 誤解何だっ!!」
手の骨をコキコキとする例の状態、更には鬼のような形相で俺を見る深夏。
「……本当に、か?」
「あぁ、本当だ! いくら深夏でも、その見解には反論するぞ! 俺が下心しかない人間だと思ったら、大間違いDA☆」
「お、おぅ。あたしが悪かったよ」
「ありがとう、分かってくれればいいんだ。実際問題、下心しかないんだけどな」

…………あっ。


「ちょ、ちょっと深夏さんっ!? コキコキからゴキゴキに変わってませんか、音!?」
「鍵……あたし、そういう正直な所、嫌いじゃないぞ」
「あ、あのっ、本当にそう思っていてくださるなら、俺の首は閉められてないような気がするんですよね!」
「……圧倒的な圧力をかけ、窒息死させる」
「ちょっ、深夏!? 何か後ろにゴゴゴッって感じの黒いオーラ漂ってませんっ!?」
「安心しろ、鍵。……すぐだから」
「ギブギブギブギブ! こっ、呼吸困難どころの騒ぎじゃないって! このままじゃ、すぐに昇天ですってぇっ!!」
好きな人に抹殺されるなら本望だと思ったら大間違いだった。
「分かったよ、あたしも鬼じゃないさ。適当に吊るして、グングニールでも刺しておくよ」
「オーディイイイィィィィンッッッ!!」
十分鬼じゃねぇか、というツッコミよりも先にでる、通称グラム割った人(仮名)
そして俺自身も『吊るされた男』にはなりたくないので、全力で頭を擦りつけ、謝ることにしておいた。

「ぷるるんっ!○ずくちゃん あはっ☆の果物屋店員でごめんなさい! ぷるるんっ!しず○ちゃん あはっ☆の果物屋店員でごめんなさい! ぷるるんっ!し○くちゃん あはっ☆の果物屋店員でごめんなさい!」

「別にお前の出演作品については全くもって興味も無ければ議論もしてない。だから、安心して逝ってこい」
「アッー!!」
まずい! このままでは、マジで砂になっちまう!!
何か、深夏のご機嫌を取れる何かは……はっ!

「ぷるるんっ!みなつちゃん あはっ☆」

「……何がぷるるんっ! だって?」
「え!? えっと……胸?」
ガリッ
「FOOOOOOOOOO!!」
おかしい、いや、俺の作戦はともかく、深夏がおかしい。
何と言うべきか……その、いつもと違う。凄く違う。
「なぁ、深夏」
「ん?」
「何か、あったか?」
恐る恐る、口にしてみる。
俺は、この質問を後悔した。正確には、後悔していないのだが。
「そう、だな……」
何故かって? 有り得ないと言っても過言ではない、意外すぎる行動が飛び出してきたからだ。
「深夏、本当に――」
「んっ……んぅ」
「…………っ!?」
何をされたのか、見当はついていたのに、身体が、そして心が、それをすぐには認めなかった。
「んっ、んぅ……っふぁ」
一瞬、何かが口ぶるに触れたような気がして、考える暇もないままに、その感触は消えた。いや、離れた。
この、唇に残された柔らかな感触は、何なのだろう。

「何かあったとすれば、お前のことでちょっと、な」


その言葉から数秒、数十秒、いや、数分が立ったのではないだろうか。
それなのに、未だに理解しがたい事実が、俺の心を惑わせた。
「……深夏、お前」
唖然、そして茫然としてしまい、立つのもやっとだった俺は、ペタリとカラオケBOXのソファーに座り込んでしまった。
「あっはは! 何だよ鍵、それ」
「え……いや、だって。深夏がその……キ、キスを……」
「いつもいつもそっちのことしか考えて無いのに、こういう時に限って駄目だな、鍵は」
「なっ、何を言――」
「んふっ……」
何を言うんだ深夏、と言いたかったのだが、口が塞がれてしまったので心の声を今ここで言わせてもらう。
嬉しい。ただ、その一言だった。
だから、一度唇を離し、今度は俺から、口付けをする。
「んんっ!? ……んっ、ふぅ……んふっ」
その時俺は、初めてキスしていると実感した。
きっとこの口付けも、一瞬のものであったに違いない。
俺にとって、全く経験の無い、キス。それは想像以上に甘くて、濃厚なものだった。
本当に一瞬。その一瞬が、今まで生きてきた時間とは比べ物にならない程、長く感じられた。
そう、時が止まった。深夏という一人の存在が、俺の、時の歯車を止めたんだ。
そして唇が離れ、俺と深夏の間に、一本の銀色の糸が引く。
「んっ……ふっ、ぷぁっ……ふぅ」
「んっ……もしもし、深夏さん? あの……これは一体、何ですかい?」
「悪い、その質問後。……鍵」
「はっ、はい!」

「好きだ」

「!? ……? ……! …………!!」
「マークだけで会話すんのは勘弁してくれ」
「あ、あぁ、すまない。……あー、何だ、深夏」
「ん?」
「その……ありがとう」
「うっわ。やっぱり鍵が普通だと気持ち悪いな」
「結構普通じゃなかったりしますよ、えぇ」
「…………」
「…………」
『……………………』
何だ、この沈黙は……何故か、気味が悪い。


「……ほら、鍵」
「えっ……あ、何ですかい」

「適当に触って……いいぞ」

ホワット!? マイネームイズ、ケン スギサキ、オーイエー!! ……いや、違うだろ。俺。
一体、何が起こったと言うのだ。まさかとは思うが、このままエロ展開突入ですか、そうですか。
これは永久保存せねばならぬ……セーブを、って……そうか、現実か。
…………!?

……現実……だとっ!?

「……マジですか」
「割とマジだ」
いざという時に、心臓がバクバクしている駄目駄目な俺とは裏腹に、深夏はいつも以上に平常心を保っている。
「良いんだな? その……俺なんかで」
すると深夏は、少し照れたように顔を俯け、そして……。

「あたしは……鍵が、好きだ。だから……な?」

そこまで言ったと同時に、おれはぎゅっと深夏を抱きしめていた。
「ちょっ、鍵!?」
自分で抱きついておいて何だが、この異常な弾力というか吸引力というか、この貼りつくような感触、ブラボーです。
「離れない。離せない。離さない。離れたくない」
「何の四原則だ!?」
「いやですね、これは深夏が柔らかいのが原因でですね」
「何故そこで、あたしへ責任が回ってくる」
「だって深夏の身体ですよ!? 俺の神経、細胞、すべてが何だか暴れまわってますよ! 全俺が感動してますよ、えぇ!」
思わず敬語になる。それほどのインパクトを持つものが、俺の腕の中にいるのだ。
「そっ、そんなに……か?」
またもや赤くなり、言葉に詰まる深夏。
「あぁ、そんなに、だ」
「…………おぅ」
先ほどの冷静さが無くなり、次第には、完熟トマトになってあらせられた。
「……なぁ、鍵。あたしもお前と同じ、高校二年生だ」
「そっ、そうですね!」
妙に強張る俺の声。そんな俺をお構いなしに、深夏は続ける。
「お前と同じで、若い身体を持て余している訳だ」
「せっ、性欲を持て余す!」
「もう隠そう、だなんて微塵も思ってないから言ってしまうが、あたしは鍵が好きだ」
「誠にありがとうございます」
「……もう、言わなくても、良いよな?」
「正直、俺も我慢が出来ないんだが」
「そっか。なら……遠慮しなくても、いいぞ」
「俺、獣になるぞ、多分。それでも、平気か?」
「……マジですか」
「割とマジだ」
何というデジャブ空間。こんなんだから、周囲から夫婦漫才と呼ばれるのだろうか。


「えぇっと……それじゃぁ、失礼します」
腕の中の深夏を少し引き離し、少し見つめあったところで深夏が目を瞑り、キスを要求するような体制になる。
うぅ……こんなにも恥ずかしいことがあるのだろうか。戦後最大の恥ずかしさだ。
が、今の状況に立たされているという点では、深夏も同じなのだろう。頬が朱色に染まっている。
えぇい、杉崎鍵! 今こそ、ハーレム王たる俺の器の大きさを見せる時だっ!!
自分に強く言い聞かせ、深夏と唇を重ねる。もう何度目になるのだろう。
「んぅ……ふぁっ、んっ……んぁっ」
キスの仕方も良く分からないのだが、とにかく俺は深夏に応えようと、舌を絡める。
そして深夏を強く抱きしめ、更に激しく、深夏の口内をかき回した。
「んんっ!?」
深夏は驚くような素振りを見せたが、残念ながらそれを気にする余裕は無い。
俺は唇を重ねながら、深夏の胸の膨らみに触れた。
「あっ……んっ、ぅ」
Oh...何という柔らかさ。会長スキンにも負けず劣らずなのではないだろうか。触ったことないけど。
「んっ……ぷはっ! ……お前結構、大胆だな」
やはり恥ずかしいのか、胸に触れている俺の手に、深夏は自らの手を重ね、ぎゅっ、っと握った。
「いや、我慢の二文字が、俺のディクショナリーから消え去ったんだよ、うん」
「ページ抜けだろ、鍵の頭なら」
「し、失礼な!」
あれ、俺達今何してるんだっけ。……うん、柔らかい。つまり俺は、深夏の胸に触れている訳で……つまり、している訳で……。別に、漫才をやっている訳ではない筈なんだが……。
「……鍵、どうした?」
……こいつの前だと、どうもいつもの俺じゃ無くなっちまうんだよな……。
「いや、何でもねーよ。それより深夏。……髪、解いても良いか?」
「えっ……あ、あぁ」
深夏は渋々と了解し、俺の胸に身体を預けてきた。あまり長引かせるのも癪なので、スイスイっと深夏の髪留めを解く。
ファサッ、という音と共に、女の子独特の、甘い香りが漂う。
「……どっちのほうが良いんだ? いつもと、髪解いてる時と」
「愚問だ。どっちも良いに決まってる」
「あー……やっぱそう来るか」
照れ隠しなのか、更に俺の懐へ顔を埋めてくる深夏。
「深夏……」
「……へへっ。鍵の匂いがする……」
「お互い様、だな」
「……鍵の臭いがする」
「ちょっと待たんか、こら」
「冗談だって。……あー……鍵、あっち向いていてくれ」
「えー何で何で」
「駄々こねるなよ」
「仕方ないじゃないですか。こう、男として。可愛らしい深夏の姿を、もっと拝んでいたいんですよ、ねぇ?」
「いや、そこで『ねぇ?』と聞かれてもな……。あーもう、とにかく! あっち向いてろって!」
深夏がぎゃぁぎゃぁと言ってくる故、渋々俺は了解し、深夏に背を向けた。


《椎名深夏視点》

うぅ。いざ鍵とするにしても、やっぱり気が回らない。
鍵は後ろ向いてるのに、なんだかずっと見られている気がして……正直、ドキドキという感情になっている。
こんなだから、乙女とか言われるんだろ……あたしの馬鹿。
そうだ、さっき開き直って、鍵に想いを告げたじゃないか! さぁ、心置きなく……。
心置きなく何すればいいんだろうか。
「……なぁ、鍵」
「おっ、おぅ。何だ?」
「し、下着は、そ、その……あたしが自分で外した方が、いいか?」
「いや、その役目、是非この杉崎鍵めにお任せを」
「行き成り欲望全開だな、おい」
「大丈夫だ、深夏。今、三百通り程シュミレーションしてる」
「お前はエロが絡むと無駄にスケールがデカくなるな……」
ゴソゴソ……
こうして話している間に下着以外の布を取り払った訳だが……も、もう、出陣しても良いよな?
「鍵……もういいぞ」
こいつも緊張しているのか、何も言わずにこちらを見る。
「お前の身体ってさ……良く見ると、凄いな」
「なっ、何がだよ」
急に何を言い出すんだ、この変態は。
「肌のツヤ、キメ細やかさやら、科学的にどうこういってると三年くらい経つが」
「それもそれで、どうなんだ……」
こいつは本当に、情緒不安定だと思えば冷静だったり。……あたしはこんなに恥ずかしい思いしてるのに、それが紛れてしまうような、鍵の不思議なオーラは、やっぱり分からない。
「なんつーか……綺麗、だ」
「…………」
「…………」
『……………………』
え、ちょっ、何だこれ! めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?
やばいな……なんか鍵の方も『言っちまったなぁ……』的な顔でこっち見てるし……。
「あー……真冬とかに比べれば、大したことは無いって。ほら、色白だし」
「真冬ちゃんには悪いんだが、俺は今、深夏しか見えてないよ」
「っ! お前はまたそんな恥ずかしいことを……」
普段なら普通に流すような鍵の言葉だが、この状況では、さすがのあたしも困る。
こういう時の鍵の言葉は、妙な力があったりと、謎だらけだ。
「ふっ……ちょっと、ド○ホルンリンクルを使っただけさ」
「えぇっ!? 深夏、まだピッチピチの十七歳でございますよねぇっ!?」
「表では、な」
「うわーお、裏の顔があるかのような超展開!」
「ロスでは日常茶飯事だぜ!」
「ロサンゼルスに謝れ。今すぐ謝れ」


《杉崎鍵視点》

謎のトークをした後、俺は深夏の言われた通り、優しく胸に触れた。
ムニッ
「ここは世紀末か」
「違うな」
下着の上とはいえ、先ほどの服の上から触った感触とは、まるで違う柔らかさが、手に伝わる。
この後、この感触を直接味わう事ができるのだろうか、と思うと、何だか心の奥底から何かがこみ上げるような感覚になる。
ゴクリ、と、思わず生唾を飲み込んだ。
「ほら、鍵。外して……良いぞ」
「りょ、了解であります!」
まるで吸い込まれているかと思うほど、俺の意識をそっちのけで、腕が背中に回る。
いや、ある意味で意識的なのだろうか。俺は、深夏の下着のホックを外す。
ふわっ
肌に食い込んでいた下着は途端に緩み、そっと落ちた。
「……深夏、顔、真っ赤だぞ。うん」
「そっ、そう言うお前だって……」
つまりは二人とも、互いに羞恥心のメーターがMAXを振り切っている訳だ。
俺がどれほど真っ赤なのかは分からないが、きっとそうとう恥じらいを帯びた顔なのだろう。
え、男の赤くなった顔なんてたいして興味ない?
「その……どうだ?」
「どうだって……何がだよ」
「いやっ! だから、その……あたしの、胸……うぅ」
あぁっ! 何だかとっても可愛らしいっ!!
「いや……あれだな、衝撃的。そして感動的だ」
「うっ、あんまりジロジロ見んなよ……馬鹿」
「すまん。無理だわ、その要求」
正直、見るなと言われようが言われまいが、目が離せないのだ。仕方ないよ、俺も男さ。
「…………ジー」
「ばっ! お前、ジロジロ見るなって言っただろ!!」
「まっ、待て! これはあれだ、不可抗力だっ!!」
実際、そのたわわに実る二つの丘を、目で追うなという方がおかしいのではないのだろうか。
いや、悪いのはこっちなんだろうけど。
「いつまで見てるんだよ……このケダモノめが」
「うわーお、素晴らしく貶されているね。しかし、俺はやっぱり男の子なんで――」

「おい、杉崎」

「ごめんなさい! 調子に乗ってごめんなさい! だからせめて、昔のように鍵と呼んでぇっ!!」
きっと、俺を苦しめる言葉としては、上位にランキングされるようなものだろう。会長はともかく。
「ったくお前は……」
深夏は表情を和らげ『やれやれ』といった目線でこちらを見つめる。やれやれ。
「ほら……好きなだけ、触れよ」
「お……おぅ」
生という事もあってか、少し抵抗感があったものの、深夏自身がその壁を破ってくれた。
これで心置きなく、と言うとおかしいのだろうか。もしや俺、深夏に洗脳されていたり……ははっ、まさか。
そんな妙に綺麗なフラグを立てつつも、俺は深夏の胸の膨らみを包み込むように、手を伸ばした。


ふにっ
「うっ……」
「鏡餅、マシュマロ、ベリーメロン、パラダイス。オーイエー!」
「何か壊れたっ!」
おっと危ない、思考回路がオウイエスしていたようだ。また深夏にとやかく言われて、というのもあれなので、素直に乾燥を述べる。
「直に触れると、何だかとっても素敵ですね、この手触り」
「んぅっ……そ、そうか?」
「何だかとっても柔らかくて……全俺(意識的な意味で)が、掌だけに集中してる感じだ」
「それは非常にファンタスティックだが、何だ……こういうのって、もうちょっと激しいものなんじゃないのか?」
「俺は初めてだから何とも言えんが……少なくとも、初めての相手にそんなことをしようとは思わんよ」
「……あーはいはい」
「えぇっ!? 俺、胸は触ったけど、気に障ることは言ってないよねぇ!?」
「そうじゃなくて、お前の言う事は……一々恥ずかしいってーか……」
「成程、それで。……それじゃぁ、続けても良いか?」
「……なるべく、優しくだぞ?」
「合点承知之助」
そんな古風な承り方をした俺は、深夏の胸を、更に手で愛撫していく。
とても柔らかくて、それでいてもっちりとした弾力もある。
ムニュリ
何だかこの感触は、とってもえっちぃものだと思う。非情にえっちぃ。
特に、俺の手の動きに合わせて、無限大の可能性(形的な意味で)を生み出す辺りが。
「んっ……鍵、もうちょっと優しくしてくれ」
「おっと、すまん。痛かったか?」
「……聞くな、馬鹿」
頬を朱色に染めながら馬鹿と言われると、何だかゾクゾクしてきた。本格的にMの境地に目覚める前兆である。
「そういや深夏、胸を『こんなもの』って言ってたな」
「え……あぁ、あれ。実際、邪魔なんだけどな」
「ふむ……そうか」
「あっ、いや……でもっ!」
「ん?」
深夏が、更に赤くなりながらこちらを見つめてきた。なんだなんだ。
「その……鍵が気に入ってくれたなら、良いかもしれないなって。『こんなもの』も」

深夏は大変なものを盗んで行きました。俺の心ですっ!


しかし、どうすれば良いのだろう。厳密に言えば、これからの行動、だ。

深夏と行為に及んでいる。

それだけで、俺の胸は張り裂けそうなほどに8ビートを刻み続けている。だが、それは俺の感情であって、深夏の感情ではない。
俺にとっての初めてが、深夏にとっての初めてと、全く同じだとは言いきれない。だから不安になる。
初めてが『痛かった』と思われては、男として納得がいかない。
「なぁ、鍵。あんまり深く考えること、ないんじゃねーか?」
「……へ?」
急に深夏が、俺の心を読んだかのように(実際読まれている)俺に言った。
「鍵があたしを好きで、あたしが鍵を好きで。……何も問題ないだろ?」
「平然とそんな恥ずかしいワードを良く言えるもんですねぇっ!?」
「仕方ねーだろ、好きなんだし」
「うぐぁっ!!」
何だろう。普段からデレてほしいだの言っていたのに、いざデレられるとこんなにも恥ずかしいものなのか。
「うっ、あぁっ……んぅっ!」
顔は真っ赤になり、ソファーをぎゅっと掴み、俺の愛撫に、声を上げながら耐える深夏。
そのサラサラとした綺麗な髪を撫でてやるのも。
「んっ、ふぅ……」
その柔らかな胸の膨らみに手を滑らせるのも。
「あっ……んっ、んぁ」
全てが、心地よかった。
不思議だ。普段は俺がやられ役になり、俺のエロ発言や言動に深夏がツッコム。
自然と、そんなサイクルが作られているような気はしていた。
なのに、この状況は何だ?いつもとはサイクルが逆回転し、俺が、抵抗しようともしない深夏を好き放題にしている。
急に深夏にそんな風に受け入れられてしまっては、こちらのほうが恥ずかしい。
が、その恥ずかしさは、深夏にも及んでいる筈なのだ。だったら、俺が恥ずかしがって、行為を疎かにしてはいけない。
俺は自分にそう言い聞かせ、胸への愛撫を続行した
「んぁっ……鍵の手、温けぇ……」
掌には柔らかい感触が広がり、その円形の中に、自分を強く主張するように突き出ている、深夏の乳首。誠にけしからんですたい。
柔らかく揉みしだき、時に強く『ぎゅっ』と胸を弄ると、更に強く、自分を主張する。
「うっ、んぅ……あぁっ!」
その先端を指で弄ると、深夏は背を軽く仰け反らせ、高い声をあげた。
少しでも乱暴に扱えば、破れてしまいそうな胸を揉み続け、指の腹で先端を擦る。
「ふぁっ! ……あっ、うっ」
ビクン、と、深夏が反応した。


少し驚いたのだが、俺だってガキではない。
怯むことなく、胸への愛撫を続けた。
「んんっ! ……あっ、んぅ……んふぁっ」
深夏が声を荒げると共に、俺の背に回した腕が力む。
「あぁっ……っく、うっ……んひゃっ!」
深夏は必死に目を瞑り、睫毛を震わせ、一生懸命自身の声と動きを抑制している。
しかし、その身体は正直に震え、眉はゆるりと垂れさがる。
「はぁ……うっ、んぅ……ん……ふぅ……」
太股が揺れ動き、深夏はしきりに膝を擦り合わせる。
その反応がつい楽しくなってしまい、俺は深夏を労りながら、愛撫を続ける。
胸の突起を指の腹で押し潰したり、指で軽く弾いたりを繰り返した。
「あぁぅっ! け、鍵……これ、何か……変、だぞ……」
深夏は声を震わせ、眉間にしわが寄る。
「うっ、あぁ……こんな、の……ふぁっ!」
指一つでここまでの快感を深夏に与えているという優越感に浸る俺とは打って変わり、深夏は今にも泣き出してしまいそうな程に顔が歪む。
「鍵……鍵ぅ……うぅ、あっ……ふぅ、んっ、ぁあっ! あっ、く……くはっ……!」
涙で目元を軽く充血させながら。そして、俺の名前を何度も連呼しながら、深夏は俺を見た。
「そろそろ……いい加減にしやがれっ。さっきから……胸ばっか……」
「わ、悪い。深夏の胸触ってると、あまりにも気持ちよくて……」
「うぅ……」
「それに、声がなんともエッチでしてね、えぇ」
「……じゃぁ鍵は、あたしの胸だけを触っていられれば良いのか?」
「っ! 違うよ、深夏。俺は……深夏の、全部が……欲しいんだ」
「……あたしも……あたしだって……ほ、欲しぃ」
再び目尻に涙を浮かべ、深夏が俺に強く抱きつく。

「あたしだって……鍵が……欲しい!」

「おっ、おぅ……」
急に、改まって告白されてしまった。
「だから……その……」
その言葉に続けて、深夏はおずおずと手を動かし、俺の下腹部に触れた。
……厳密に言えば、俺の『ソレ』に触れた訳だ。
深夏への愛撫で全く気が付かなかったが、俺の自身は、鋼鉄のように硬くなっていた。
「……これって、こんなになるもんなのか?」
「当たり前だろう。深夏なら余計に、だ」
「…………馬鹿」
「深夏?」
何故か俺には目線を合わせず、深夏は口を開いたので、俺もそちらに目線を向ける。

「あんまり焦らすのは……やめろよ。あんまりあたしに、意地悪すんなよぉ……」

そこには、純真乙女がいた。


「ちょっ、深夏さん!? どうかなされました!?」
「もぅ……なんで『さん』付けなんだよぉ。深夏って呼んでよぉ……」
「へっ!? あ、はい……深夏」
「……えへへっ」

あれ、ツンデレって何だっけ?

「ほら……こんなに硬くしちまって……。鍵、我慢できねぇんだろ……?」
「うぅっ!」
深夏が布越しに、手で俺自身をスリスリと擦る。
「挿れて……いいぞ、鍵」
その瞬間、俺の中で、野獣の本能が爆発する。
「みっ……深夏っ!」
「んひゃっ!?」
気がつけば俺は、深夏をソファに深く押し倒していた。
「……深夏が、欲しい。俺は、深夏の全てを……知りたい」
「鍵……」
、深夏の秘部を守最後の砦を、はぎ取った。
ふわり
下着の落ちる音が大音量で聞こえる程、静けさに充ち溢れるBOX内。
その中で、俺は、一糸纏わぬ姿の深夏を押し倒している。
「……すまん、深夏。俺がマジで野獣になったら、殴ってでも気絶させてくれ」
「ふぅ、馬鹿だな鍵。……あたしが、鍵を拒絶することなんて……絶対に、ないんだよ」
そう優しく微笑む深夏に、俺はもう一度、キスの雨を降り注がせる。
「んっ、ちゅっ……鍵。……好きだ」
「あぁ。俺も……深夏の事が、好きだ」
互いに愛を感じ取り、いざ契りを交わそうと――

「だが、あたしはあくまで『攻め』の姿勢を忘れないぞ」

「ゑ?」


何故か、俺が下になり、深夏が上に乗るという、まさかの騎乗位だった。
こうして見上げると、やはりそこらの高校二年生とは比べ物にならない程の見事な身体のライン。
きゅっ、としまっている腰や、スラリとした長い脚。
出る所は出ているというスレンダーな身体は、まさに芸術と呼ぶに相応しいレベルだ。
そんな極上とも呼べる深夏の身体は、今、俺に跨っているわけで……。
「深夏……これ、俺が受けみたいになってません!? 健全な意味で!!」
「さっきは散々弄られたからな、今度はあたしの番だ、へへっ!」
そんなにこやかに笑ってらっしゃる深夏とは対照的に、危ない衝動が押し寄せてきている杉崎鍵、高校二年生の秋。
本能VS理性の戦いだ、こうなったら。
「それじゃ、鍵……行く、ぞ?」
「た、大佐! 準備、感無量であります!」
「何で完了じゃないっ、ん……だ」
深夏の言葉の途中で、深夏の秘部と、俺の物の先端が触れる。
未経験者である俺の愛撫で感じていてくれたのか、深夏の秘部は、十分すぎるほどに濡れていた。
「……散々、弄られ過ぎたな」
苦笑する深夏は、それと同時にゆっくりと腰を下ろし、俺のものを咥え始めた。
「んっ、うぁっ!」
恐らく誰にも触れることを許していないであろうその入り口が、今、俺の物によって開かれている。
深夏の初めてになれる、それだけで俺は、途轍もない優越感に浸っていた。
「キツっ……うっ、く。深夏、平気か?」
深夏が俺に初めてを、どんな思いでくれようとしているのか、俺は分かっていた。
だからこそ、その深夏が堪らなく愛おしく思えて、意識的にも、無意識的にも心配をしてしまう。
「いっ、つぁ……平気、だって……んっ!」
ズッ、ヌブッ
平気だと言いながらも、苦痛の声を漏らす深夏。
「うっ、く……あぁっ!」
自然と、俺の口からも声が漏れる。
「なぁ、深夏。無理しなくてもいいんだぞ? ぶっちゃけ、こうしてるだけで俺は……」
「んっ、駄目だ……あたしは最後まで、したいんだよ。……鍵と」
嬉しいこと言ってくれるじゃないかコイツめ。
痛みに耐えながらも、その表情は、まさに嬉しさを表す笑顔だった。
そして深夏は、更に奥深くへと、俺自身を誘って行く。
ズブッ、ズッ、ブブッ
「うっ、あっ!」
ズズッ、グ……
「あっ、くぅ……んっ!」
暫く奥深くに進んで行くと、壁のようなものにあたった。
「鍵……ちょっと、支えててくれるか?」
「あ……あぁ、分かった」
深夏の腰に手を添え、彼女の体重を受け止める。
心なしか、深夏の体が、震えていた。
「深夏、その……怖い、か?」
恐る恐る、深夏に尋ねてみる。
案の定、俺が既にビクビクと怖がっているのは、きっと気のせいと言う奴だろう。
「うっ、るせぇな……これでも、ここまで挿れるだけで、結構身体が震えてるんだよ」


深夏の初めてを貰えた。
だがその嬉しさとは裏腹に、自分の愛撫があまり意味をなしていないのではないか、そのせいで深夏を苦しめているのではないか、と、結構な追い詰められ方をされている俺。
「……ほ、本当に、大丈夫か?」
少量だが、深夏の秘部からは、赤い液体が垂れ、俺の物を伝って流れてきている。
グロテスクとまでのものではないが、今の俺を心配という穴に落とすには、十分だった。
「大丈夫じゃないっていったら?」
「……悪りぃ、それでも止められそうにないわ」
なるべく、深夏に痛みを感じさせたくない。
でも、深夏がこの状況で、抜かせてくれるということは、まず無いだろう。
それに、この包み込むような膣のうねり具合に、動かないまま長時間耐えるのは、かなり辛い。
正直、辛抱たまりませんよ、へっへっへ状態なのだ。
「だと思ったぜ……」
そこら辺、察してくれているのは喜ぶべき事態なのだろうか。
そこで俺は、思いきった行動に出ることにした。
クルりんパっと。
「なっ!? 何のつもりだよ、鍵!!」
「いや、あの体制だと、重力で挿入されていくからキツいだろうと思って……」
「えっ、あ、あぁ……そっか。……サンキュ」
頬を赤らめながら、視線を逸らしつつも感謝の言葉を述べる深夏の姿は、可愛いの一言に尽きる。
「うっ、……鍵。もっ、う……動いて……良い、ぜ……」
「でも、お前……まだ」
「良いっ、んだよ……。鍵と初めてを奪われた……証ってことで」
「多分、俺が初めてを深夏に奪われた、でも通る気がする」
相手が深夏と言うだけで、妙な屁理屈を並べたて、無差別に口から放って行く。
「でもさ……この痛み、忘れたくないんだ」
すると深夏は、目尻に涙を溜めながら、こう続けた。
「鍵のことが……好き、だから……ずっと好きでいたいからっ! 内地に居る時も、少しだって鍵のことを想っていたいからっ!!」
「っ!!」
それは、あまりにも、単純で。……あまりにも、健気だった。
言ったことの重大さに気付き、顔を真っ赤にして目を逸らす様など、まさに可愛らしさの塊と言えよう。
「なぁ、深夏」
「……何だ、んぅっ!?」
ここまでストレートに、俺に対して告白をしてくれた深夏がいる。
その状況は、俺を獣にさせることよりも質の悪い、選択肢を奪うという状態にまでさせる。
互いの唇が触れ、身体をビクンと反応させる深夏。
気分の問題なのか、はたまた羞恥心からか、ぎゅっと瞳を閉じ、俺の背中に手を回している。
だから、俺もそれに応えるように、深夏の肩を抱いた。
「んっ……ふっ、ぷぁっ!」
やがて唇が離れ、再び、銀色の糸が引く。
「大丈夫か、深夏」
「あぁ……平気、だ」
今まで見てきた、嬉しさや、楽しさから伝わる笑顔とは違い、心からの嬉しさ……いや、優しさを感じさせる深夏の表情。
今までに見た、誰の笑顔よりも輝いていたその笑顔は、俺の心に、何かを与えてくれる。そんな感じがした。


「ちょっとは痛み、引いたか?」
「あぁ。お陰様で、な。へへっ」
ニカッと微笑む深夏に、俺は一つ安心した。
「それじゃぁ……もうちょっと奥まで、挿れるぞ?」
「おぅ……優しく、な?」
不安を募らせる深夏に、俺は少し戸惑ったが、その不安を早く終わらせる為に、俺は決心した。
深夏の足首を掴み、腰に力を入れる。
ズッ、グププ
「うぅっ、あっ、んっ、ふぁぁっ!?」
ズプッ、グッ……ヌブ
「あっ、くぅ……んぅっ、うあっ!」
「うっ……っく! 深夏……奥まで、入った……ぞっ!」
「そんなの……言われなくても、分か……っ! うっ!」
深夏の奥は、火傷しそうな程に熱を帯びていた。

俺は今、深夏を俺自身で感じている。

それは、深夏にとっても同じだ。
「……鍵?」
「なんだか今の深夏……」
「?」
「とってもいやらしいです、はい」
「ほぅ、それは光栄だな、鍵。肋骨二、三本いっとくか?」
「下手すれば腹上死しませんかねぇ!?」
まさかコトの最中にまでこんな会話をすることになるとは……いくら同学年で気兼ねなく話せると言っても、話せすぎの度合いに達しているのではないだろうか。
「生憎何だが、今鍵に逝かれる訳にはいかねぇからな」
「生憎何だが、今天に召される訳にはいかねぇからな」
一つ言えるとすれば、俺と深夏の相性は抜群だと言う事だろうか。


ズプッ、ズブッ
「ふぁっ……んっ、んぁっあ、……うぅっ、鍵ぅ……」
再度腰に力を入れ、ゆっくりと突き、激しく突き、を繰り返す。
ズブッ、ヌブッ!
突くたびに、深夏は声を高らかにし、秘部からは粘り気の強い蜜が溢れだす。
「あぁっ……はぅぁ……あんっ、あはっ! ……うっ、はぅんっ……っ!」
「深夏……どう、だ?」
じゅぷじゅぷと卑猥な水温が、狭い室内に反響する。
「すっ、……っご……ふぁっ、いぅ……んんっ!」
その響きに深夏の喘ぐ声が混ざり、なんとも言えないシンフォニーを奏でている。
「んっ……ふぁっ! け、鍵は……これ、気持ち……良い、か?」
「あぁ……最高に気持ち良いぞ、深夏」
じゅぷっ、ズッ、ヌブッ
「んぁっ、ぅっ……そりゃ……良かった……ふっ、うぁっ!」
深夏の熱で溶けそうな感覚に陥るも、深夏を満足させるために、俺は必死に腰を打ちつけた。
「俺って今、深夏と……繋がってるんだな」
「あっ、んんぅっ! ふぅっ……そう……だな……ぁはんっ! ……うぅ、んぁっ!」
奥まで入りきれば、ゆっくりと腰を上げ、またゆっくりと下す。
「あぁっ! うっ、んっ……はぅんっ……んあぁっ!」
「うっ、あぁっ!」
自身の先端から伝わる強い快感が、俺の理性をどんどん削って行く。
上り詰める快感に酔いながらも、俺は深夏の名前を呼ぶ。
「……深夏っ! みっ、深夏……っ!」
「んゃっ……うぁっ、あぁっ! けっ……鍵……っ!」
「うっ、ぁ……ん?」
「なっ、何か……来るっ! 良く分かんねぇけどっ、何か……凄いの、が……はぁっ! うっ、んぁ、あっ……!」
「うぁっ、俺も……もうっ、駄目だっ!」
遂に理性が吹っ飛び、腰の動きを早くする。
ズブッ、ヌッ、じゅぷっ……ズブッ!
「ふあぁっ……やぁ、け、鍵ぅ……あたし、もっ……うぅ、ふあっ! け、鍵っ!」
「くっ、うっ! あぁっ、深夏! 深夏っ!」
無我夢中に、腰を打ちつける。俺は、目の前が見えない程に意識を朦朧とさせていた。
「んんんっ! ふぁっ、……うっ、はぁっ! ひゃっ、あっ……あはぁっ!!」
背中に爪が食い込む程、俺を『ぎゅっ』と抱きしめ返す深夏を、更に抱きしめ返す。
「あっ、あぁっ! みな、つ……うっ、深夏……うぅっ!!」
「鍵っ! 鍵っ! うっ、あっ! んぁああああああああああああっ!!」

ビクンッ! ビュッ、ビュルルルッ、ドピュッ!!

俺は深夏を抱きしめたまま、ホワイトアウトした目を静かに瞑った。


「……鍵。……おい、鍵。起きろって」
「え……深夏?」
「何だよ」
「夢じゃ……ない。夢じゃ……なかった! わーわー!」
「そのジ○リシリーズを彷彿とさせる驚き方は何だ」
「ふっふっふ。俺の驚き方には、百八十通りのパターンがあるのさ」
「もう、お前の頭が非常に残念な低スペックだということが分かったよ」
「何を言うか、深夏。こんなの、俺のスペックの中では氷山の一角にすぎない」
「マジでっ!? これで氷山の一角と申すなら、もうお前に言えることは何もないよ! むしろ軽蔑的な意味で尊敬するわっ!!」
「はっはー、照れるな」
「いや、褒めてないから!」
「いやはや、行為が終わればすぐにツンツンする深夏も可愛いなぁ――」
「ドラゴンスープレックス」
「アッー!!」

「おーい、鍵。生きてるか? 死んでたら返事してくれ」
「…………」
「よし、生きてるな」
「理不尽なのにポジティブな受け止めかたっ!」
「あぁ……世界を改変する力とか手に入らね―かな……」
「話の逸らし方といい、あんたらやっぱり姉妹ですね!」
「そうか?」
「(駄目だコイツ、早く何とかしないと……)」
これが、行為を終えた男女の会話だと思う奴が、果たしているだろうか。非常に愚問である。
「所で深夏。その……もう、深夜ですけど」
「あ……マジか。結構寝ちまってたみたいだな。巡達起こして、帰ろうぜ」
「だな。気をつけて帰れよ」
「あたしなら問題ねぇって。……あぁ、鍵」
「ん?」
「今日は、ありがとな。……んむっ」
「んっ……」
別れ際、今度はちゃんと、互いを理解した上でのキス。
深夏への愛、プライスレス。
「ぷはっ……やっぱり恥ずかしいな、これ」
「深夏からしてきたんじゃないか」
「うっせ。そのぐらい察しろよ」
「はいはい。しかし、正直名残惜しいわ」
「ん、何が」
「決まってんだろ、お前がだよ。今日は適当に巡達誤魔化して、深夏送ってくかな」
「今日丸一日バイト三昧なのに、そんなことしてると体調崩すぞ。馬鹿なこと言ってないで、明日もまた元気な顔見せろよっ!」
「あーはいはい、分かったよ。分かりましたよ」
「へへっ。じゃぁな」
「おぅ。また明日」
デレデレの深夏と分かれ、俺は仕方なく、帰り道が同じ中目黒と帰るのであった。



  • 最終更新:2010-09-27 18:36:21

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